渋谷文化プロジェクト

渋谷をもっと楽しく!働く人、学ぶ人、遊ぶ人のための情報サイト

学校の枠を飛び越えて!「渋谷ユナイテッド」がプロデュースする最先端の部活動

最近、公立学校での部活動は部員数が減ってしまい、団体での試合や大会出場に必要な人数が集まらないという話を耳にすることがあります。その背景には生徒数の減少と共に、教員への負担や専門的な指導ができる人材の不足といった課題もあるといいます。そこで渋谷区では、全国に先駆け、学校の部活動を地域クラブへと移行し、より充実したスポーツ・文化活動の実現を目指して、一般社団法人渋谷ユナイテッドを2021年10月に設立しました。

「渋谷に住む人・渋谷で働く人・渋谷で学ぶ人・渋谷が好きな人など渋谷民の誰もが、スポーツや文化活動を楽しくする・見る・支える・つながる経験を通して、生涯に渡り、心身の健康増進をする取組や環境を創ること」を目指す同組織は、渋谷区にあるリソースを活用しながら、子どもたちの夢の実現やスポーツ・文化活動の発展を総合的にプロデュースする役割を担っています。渋谷区の意向を受け、現在先行して進めているのが、中学校の部活動を地域移行する「シブヤ『部活動改革』プロジェクト」です。

<関連リンク> 一般社団法人渋谷ユナイテッド

|“渋谷区だから” が活動の付加価値になる

2023年4月現在、渋谷ユナイテッドで実施予定の部活動は10種類。サッカー部、ボウリング部、ダンス部、ボッチャ部、将棋部、デジタルクリエイティブ部、eスポーツとメタバースであそ部、フェンシング部、ラグビー部、料理・スイーツマスター部があります。「渋谷区のリソースを活用する」と掲げるとおり、ボウリング部は笹塚ボウル、料理・スイーツマスター部は代々木にある服部栄養専門学校で部活が行われ、将棋部は千駄ヶ谷にある日本将棋連盟からプロの講師がやってきます。

▲日本将棋連盟から講師を迎える将棋部。

例えば、渋谷区には現在、公立中学校が8校ありますがサッカー部はそのうちの4校にしかなく、11人の部員がいないために公式試合に参加できない学校もあるそうです。そこで現在は校内の部活と、渋谷ユナイテッドで他校の生徒と合同の部活との両方を実施し、その中で試合形式の練習ができているといいます。

大人気の「デジタルクリエイティブ部」は、渋谷駅真上にある渋谷スクランブルスクエアにオフィスを構える株式会社MIXI(ミクシィ)が活動場所。生徒たちはオフィスに訪れ、オフィシャルなYouTubeコンテンツを作る社員からデザインのコツを、エンジニアからプログラミングやゲームの作り方を教えてもらっています。日ごろからスマホやタブレットに親しんでいる生徒には最高の環境。また、こういった現役で活躍するプロと触れ合えるのも、生徒たちにとって幅広い価値観を得られる貴重な機会といえます。

▲IT業界の第一線で活躍するプロから指導を受けられるデジタルクリエイティブ部。

|実際の部活に潜入!

「学校とは違うところで部活動に参加する」ってどういう状況なのかを実際に見てみたくなり、月2回土曜日、代々木にある服部栄養専門学校で活動を行っている「料理・スイーツマスター部」の部活をのぞかせていただきました。

メニューは季節にちなんで決めることが多いそうで、この日のメニューは「稲荷寿司」と「手作り豆腐のかに餡かけ」。参加者は25名、7班に分かれての実習がスタートしました。

揃いのエプロンとコックハットを被った生徒たちは、まず講師のデモンストレーションを見学します。指導をするのは服部栄養専門学校の講師陣、普段はプロの料理人も指導する立場の方です。周りの設備も全てがプロ仕様とは、なんて贅沢なシチュエーション!

▲服部栄養専門学校の講師陣による本格的なデモンストレーション。これは思わず説明に聞き入ってしまいます。

取材当日は立春と初午のタイミングということから、初午にちなんだ稲荷寿司と、邪気を払うといわれる白い食べもの豆腐を作るという解説にはじまり、初午の由来や全国の稲荷社で豊作祈願・家内安全・商売繁盛・厄払いなどが行われることも紹介。また、寒い季節は風邪などの病気になりやすいので、邪気を払うといわれる白い食べ物を温かくして食べることで内臓から温めた、といった風習や季節と料理の関わりにも触れます。子供たちと一緒に、ユネスコ無形文化遺産に登録されている和食の素晴らしさを改めて感じ入りました。

酢飯作りから始まった実習はまるでテレビの料理番組のよう。講師の手元がカメラで撮影されているので、モニターを見れば詳細に何をしているのかがわかります。家庭でレシピを再現する際のアレンジ方法や、簡易なやり方も解説の間に挟まれており、筆者は炊飯ジャーで酢飯を作るという目からウロコのアイデアを知ることができました。

▲グループごとに盛り付けもさまざま。役割分担をしながら作業を進めます。

他にも、お米のことを指すシャリという言葉は仏教用語で、「火葬されたお釈迦様の骨」を意味する「舎利」が語源だといった教養や、酢飯に鶏肉のそぼろを入れても美味しいというプチ情報、にがりについての化学的な話、蒸すためのセイロが家になければどうするのか、などトリビアが盛りだくさん! 中学生たちが羨ましくなりました。

講師による鮮やかな野菜の千切りなど、プロの技をテレビ越しではなくリアルで見て、その場でトライできる。さまざまな知識が散りばめられた中、プロ講師に教わって調理をしながら、片付けや食べるためのセッティングも生徒たち自らで行う。学校の授業のような強制感はなく、のびのびとしつつも規律は感じられる、独特な場なのではないかと感じました。

▲出来上がった「稲荷寿司」と「手作り豆腐のかに餡かけ」。

生徒からは「油揚げに酢飯を詰めるのが難しかった」という声や、「豆乳から作った手作り豆腐の柔らかさと甘さには驚いた」という声も聞かれました。

|「シブヤ『部活動改革』プロジェクト」の背景とこれから

部活動の地域移行を進めていくための一環である「シブヤ『部活動改革』プロジェクト」の背景にあるのは、少子化による生徒数の減少です。1981年、渋谷区内には6,300人の区立中学生がいましたが、現在は1,800人まで減少しています。その結果、「人数不足からやりたい部活が学校に存在しない」「部活はあっても試合出場人数に足りない」といった声も聞かれます。

また、教員側も授業準備や進路相談などに加え、部活動まで担当する労働時間の問題や、経験のない分野の顧問を手探り行わなければならないなど、教員の「働き方改革」も必要に迫られています。こうした現状を考えれば、「専門家の助けを借りた方がいい」という提案がなされるのは当然の流れかもしれません。

今回訪ねた「料理・スイーツマスター部」では、参加した生徒のうち90%が再度参加を希望し、生徒の満足度の高さがうかがえます。別の側面として、学校の枠から飛び出すことで、他の学校に進学した友人との再会や、同世代の生徒との新たな出会いがあるという声も聞かれ、交友関係を広げる場、友達を作る場にもなっていました。

月2回の部活では、和食・洋食・お菓子を順番に作りますが、毎回季節に合ったメニューに挑戦します。部活中に食べきれなかった料理やスイーツは持ち帰り、家族と食べるそうです。中には後日、家族に挑戦した料理やスイーツを振る舞うのを楽しみにしている生徒もいるらしく、部活として経験を積む以上に家族とのコミュニケーションのきっかけになっているのは面白いことだと感じました。

▲協力して作業を進めながら、自然にコミュニケーションを交わす生徒たち。

部活の“マネージャー”を担当する服部栄養専門学校の熊谷さんは「民間の子ども向けクッキングスクールとは違うので、部活動らしさを大切にしていきたい。挨拶をする、先生への言葉遣い、部員相互のコミュニケーションを重視する、といった人間形成も担っている責任も感じています」と部活動へのこだわりを話してくれました。さらに「料理はスポーツと違って大会などがあるわけではないので、今後、目標になる仕組みも考えていきたい」とも。

今年から渋谷区の公立中学校の建て替えが始まる中、これからの部活動のあり方として渋谷ユナイテッドの活動が持つ可能性は大きなものです。地元ならではのリソースを活かしつつ、企業と連携し、子どもがプロフェッショナルと触れ合う活動の中で、子どもの未来への可能性を広げる大きなメリットになり得るものだと強く感じました。

イトウノリコ(tannely)

結婚、出産を期に渋谷に移り住んで15年。人生は飲む食う楽しむ!誰かの面白いが他の誰かの面白いにつながるのが大好き。ライターと並行して翻訳や制作も行っています。

オススメ記事