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渋谷・郷土博物館、企画展「渋谷にあった映画館」 「映画の街・渋谷」の映画館史を俯瞰

白根記念渋谷区郷土博物館・文学館で現在、企画展「渋谷にあった映画館―昭和30年代までー」が開催されている。

大正から昭和半ば、庶民に最も身近な娯楽として愛された「映画」。映画の最盛期と呼ばれた昭和30年代には、渋谷駅周辺に33カ所もの映画館があったという。その後、テレビや様々な娯楽の台頭に伴い映画館は徐々に衰退していくが、かつて「映画の街」と呼ばれた当時の渋谷の映画館はどんものだったのだろうか。今回の企画展では、明治から昭和30年代半ばまでの時代区分を「明治・大正」「明治初期」「戦後」と3つに分けて、渋谷区内にあったその当時の映画館の点在マップと外観写真、当時の映画チラシやチケットなど貴重な資料を多数展示している。

「芝居小屋・寄席から映画館へ」展示コーナーでは、明治・大正時代の渋谷の映画館を紹介する。演劇や落語から次第に映画へ娯楽が移っていくと、それまで芝居小屋や寄席として営業していた施設が業態転換を図り、映画館に転身するケースも多かった。たとえば、渋谷で最も古い映画館として知られる「渋谷館」は、明治42年8月に現在の渋谷駅ハチ公前広場近くで開館するが、もともと芝居小屋であった同映画館2階には、その名残である桟敷席があったという。

▲大正14年、道玄坂百軒店にあった「渋谷キネマ」開館時のプログラム/松田集氏所蔵

その後、大正6年に道玄坂上に「渋谷劇場(渋谷花月劇場)」、関東大震災後の百軒店に「聚楽座」(大正13年開館)、「渋谷キネマ」(大正14年開館)、現在の文化村通りに「道玄坂キネマ」(大正13年開館)など、黎明期は駅周辺よりも道玄坂・百軒店周辺に映画館が集積していたことが分かる。

▲大正時代、「エビス帝国館」(中林啓治画)/白根記念渋谷区郷土博物館・文学館所蔵

恵比寿駅近くの渋谷橋交差点付近にも映画館「ヱビス帝国館」(大正12年開館)があった。同館は映画監督・木村威夫さんの実家だったという。

次の「渋谷のターミナル化と映画館」展示コーナーは、昭和初期に渋谷駅のターミナル化が進むと駅周辺が急速に賑やかになり、映画館も駅を中心に大手映画会社直営の大型映画館がつくられ始めたことを紹介する。

同時期の代表的な映画館は、昭和11年、東京横浜電鉄(現、東急)が道玄坂下の陸軍第一憲兵隊渋谷分隊の駐屯所跡地に開館した「東横映画劇場」である。開館直前に東宝へ譲渡し「渋谷東宝劇場」となり、現在も「東宝シネマズ」として営業を続けている。

明治通り沿いでは、松竹系S・Y直営の「渋谷松竹映画劇場」(昭和13年)、地下には短編映画を上映する「銀星座」も併設していた。同地は現在の「西武百貨店渋谷店A館」である。ちなみに東急は昭和13年、宮益坂にもニュース映画・文化映画専門館「東横ニュース劇場」も開館し、来街を促進する娯楽として映画産業への期待がうかがえる。

続く「戦後の隆盛と衰退」展示コーナーでは、渋谷の映画館の最盛期から、テレビ等の普及で徐々に衰退し減少していく映画館を紹介する。関東大震災ではほとんど被害を受けなかった渋谷であるが、東京大空襲では街全体が焼け野原となり、多くの映画館も焼失。その一方で戦後、庶民の娯楽を支えたのも映画であった。終戦翌年、昭和21年1月には早くも焼けた東横百貨店3階に「東横第一映画」から「第三映画」まで3つの映画館がオープンする。僅か数年間の暫定的な営業であったが、戦争で疲れた当時の人々の心をいやしたに違いない。

同時期には、現・文化村通りに「渋谷大映」(昭和22年)、井の頭通りに「渋谷パレス」(昭和23年、その後のシネパレス)、宮益坂下に「渋谷東映劇場」(昭和28年)が開館する。ちなみに「渋谷東映劇場」は、後の 「渋谷TOEI」、現在の「Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下」となっている。

▲昭和32年、東急パンテオンなど4館が入る「東急文化会館」/白根記念渋谷区郷土博物館・文学館所蔵

昭和30年代に入り、渋谷駅東口の渋谷小学校跡地に文化の殿堂と呼ばれた「東急文化会館」(昭和31年開館)がオープンし、館内には1648席を誇る大劇場「渋谷パンテオン」や「東急映画」、「東急名画座」「東急ジャーナル」の4つの映画館が一気に誕生。さらに渋谷駅ハチ公前広場向かい側にあった「峰岸ビル(現・QFRONT)」には、「渋谷宝塚劇場」「東宝シネマ」(昭和34年)が開館するなど、映画産業が戦後復興の一翼を担ったことがうかがえる。

▲昭和31年、「渋谷松竹映画劇場」と「キャピタル座」(現西武渋谷店A館の場所)/白根記念渋谷区郷土博物館・文学館所蔵

最盛期には渋谷駅周辺に33カ所も映画館があったが、その後、テレビや様々な娯楽の台頭に伴い、かつて隆盛を誇った映画館は徐々にその姿を消していく。渋谷においては、シネマライズやユーロスペース、シネセゾン、Bunkamuraル・シネマなど、良質な海外作品を単館上映する尖った映画館が勃興し、90年代のミニシアターブームを築くが、それもインターネットの登場で衰退していく――。

渋谷における「映画館史」を俯瞰する同企画。関東大震災や戦争など苦しい環境の後で、映画館が隆盛を誇ってきた歴史を踏まえると、映画が渋谷の街の発展にいかに大きな功績を残してきたのかを改めて実感させられる。当時を知らない世代でも、当時の映画館の雰囲気や、映画が人々に与えた影響などをより身近に感じることができるだろう。

渋谷にあった映画館 −昭和30年代まで−
〇開催:2024年1月13日 〜 3月24日
〇会場:白根記念渋谷区郷土博物館・文学館
〇料金:一般:100円/ 小中学生:50円
〇公式:https://shibuya-muse.jp/

編集部・フジイタカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。

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