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公園通りギャラリー、展覧会「共棲の間合い -『確かさ』と共に生きるには-」開催中 即席麺に対する深い愛着など

東京都渋谷公園通りギャラリーで現在、日常の間合いや確かさを表現した展覧会「共棲の間合い -『確かさ』と共に生きるには-」が開催されている。

今回の展示では、住む、暮らす、生活することを起点に表現する4人(組)の作家たちの作品や活動を紹介。身近な家族との関係に迫るパフォーマンスや、即席ラーメンに対する深い愛着、近隣地域のゴミ拾い、日常の出来事から生まれた詩、現代の住居や生活様式を問い直す試みなど、各作家のユニークで多彩な表現が展開されている。それぞれの作品は、生活と芸術の境界を揺るがし、あいまいにすることで、私たち鑑賞者に何かを問いかけているようにも感じる。

各作家の展示作品を具体的に見ていこう。一人目は現代美術作家・村上慧さん。2014年より、自作の発泡スチロール製の家を持ち運びながら国内外で移動生活を行うプロジェクト「移住を生活する」を始め、既存の住居や生活様式を問い直す活動を行う。最近では発酵熱や気化熱を利用し、電気を使わない冷暖房空間の開発に取り組む。同展では新たな「住むことのパターン」を探る試みとして、落ち葉に付着した微生物が有機物を分解する際に出る発酵熱を利用した「足湯」と「サウナ」を展示している。

大きな浴槽内に代々木公園の落ち葉(約4200リットル)を入れ、米こうじ、水を加えて発酵熱を発生させている。落ち葉や腐葉土の匂い、幼少期にカブトムシを育てていた時の懐かしい香りを思い出す。

▲会場から近い代々木公園で集めた「落ち葉」

槽内の温度は平均25℃前後を推移しているが、2月9日には58.9℃を記録したという。会場では実際に「足湯」体験も可能で、靴を脱いで提供されるビニール袋を履き、温床に足を入れることができる。
▲サウナスペース

さらにビニールハウスはサウナスペースとなっている。鑑賞のみならず、直に熱を体感できるインスタレーション作品として興味深い。人間の目には見えない、無数の微生物の働きを改めて実感する試みといえる。

続いて、2人目は現代美術の前線で40年近く活躍する現代美術家・折元立身さん。1960年代のフルクサスなどのハプニングアートに影響を受け、顔にパンを巻き付け街中に繰り出すパフォーマンス「パン人間」や、自身の母の介護を作品とする「アート・ママ」など、コミュニケーションのあり方を愛とユーモアを交えて問いかける作風で、国際的に高い評価を受ける美術家の一人。今回の展示では、代表作である「パン人間」や「アート・ママ」のほか、1970年代に活動したニューヨーク時代のオブジェと、 初公開となる新作オブジェを並べて展示する。

▲パン人間の息子とアルツハイマー・ママ

折元さんが母親を介護する日々、その暮らしぶりや親密な間柄をパフォーマンスによって表現し、写真や映像、オブジェを用いて形に残している。
▲「ボロボロのダンボールボックスと母の生活の声」(1999)、ダンボールに近づくとセンサーが働き、中から母親の声が聞こえてくる

折元さんの作品づくりは、愛とユーモア、慈しみに富み、人と人の間柄やコミュニケーションのあり方をパフォーマンスや作品を通して投影しているのではないだろうか。

3人目は、滋賀県にあるアートセンター&福祉施設「やまなみ工房」に所属する酒井美穂子さん。知的障害のある酒井さんは、ある時を境に即席麺「サッポロ一番しょうゆ味」に執着し、どこであってもだれと居ようとも片時も即席麺を離さない。それを食べるわけでも、袋を開けるわけでもなく、ただ握り、一定のリズムで「カサッカサッ」とビニールの擦れる音を聞き、微かな反射を眺めつづけているのみ。毎朝、酒井さんが工房に出勤する際に、家族が新しい即席麺を手渡す。
▲「サッポロ一番しょうゆ味」の袋上に付箋で日付を記録する

工房では、彼女が触った後の前日の袋麺に全て日付を添えて保管している。一見、同じように見える袋でも、彼女にとっては異なる形状のもの。それは、言葉を発することが少ない酒井さんの日々の記録であり、酒井さんと施設職員との記憶を蘇らせるメディアとなっている。

今回の展示では日々欠かさず握ってきた1000個を超える即席麺を、会場の壁一面に掲出し、過去最大規模のインスタレーションを発表している。このルーティンは28年以上も続き、保管する即席麺の数も今なお増え続けているという。

最後は、京都を拠点に活動するNPO団体「スウィング」。従来の障害施設の枠を飛び出し、障害のあるなしを超えた「一市民」の集まりとして、自由な活動や表現活動を行っている。
会場では、スウィングが行っている地域の清掃活動「ゴミコロリ」や、絵画・詩などの創作活動を紹介する写真や作品等を展示紹介している。

青いコスチュームを着たヒーロー「まち美化戦隊ゴミコロレンジャー」は、ゴミコロリの広報部隊で、近所の幼稚園や小学校の子どもたちから歓声を浴びるほど。月1で行われる清掃活動は、まちの美化を目的にしているわけではなく、むしろ、活動を通して生まれるコミュニケーションや、小さな喜びを感じることに重きを置いているのだという。

アートと聞くと身構えてしまうが、そう小難しくも堅苦しくもない。会場で4人(組)の生き方や、人とのコミュニケーションの在り方の一端に触れ、それぞれの鑑賞者が、それをどう感じるかは自由である。面白いなと思ったり、誰かに教えたくなったり……、そこから新しいコミュニケーションが生まれるかもしれない。まずは会場へ足を運んでみてはいかがだろうか。

入場無料。会期は5月12日まで。

共棲の間合い -「確かさ」と共に生きるには-
〇会期:2024年2月10日 〜5月12日 11:00−19:00
※休館日は月曜日(4/29、5/6は開館)、4/30・5/7は休館
〇会場:東京都渋谷公園通りギャラリー
〇入場:無料
〇展示: 展示室1・2 交流スペース
〇出展:折元立身、酒井美穂子、スウィング、村上慧
〇公式:https://inclusion-art.jp/archive/exhibition/2024/20240210-178.html

編集部・フジイタカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。

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