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KEY PERSON キーパーソンが語る渋谷の未来

渋谷を中心に活躍する【キーパーソン】のロングインタビュー。彼らの言葉を通じて「渋谷の魅力」を発信します。

プロフィール

成蹊大学法学部を卒業後、東京写真専門学校を経て、鉄道写真家・真島満秀氏に師事。1996年に独立。「1日1鉄!」や「ゆる鉄」など新しい鉄道写真のジャンルを生み出している。広告、雑誌などに作品を発表するほか、講演やテレビ出演など幅広く活動中。作品集に『DREAM TRAIN 写真家が見た 旅とカメラと夢の記憶』(インプレスジャパン)、『中井精也の鉄道スナップ撮影術 ゆる鉄』(アスキー・メディアワークス)など。JRPS(日本鉄道写真作家協会)副会長。

いよいよ2013年3月16日に迫った東急東横線と東京メトロ副都心線の相互直通運転。半世紀にわたり、かまぼこ屋根などのデザインで親しまれてきた東横線のターミナル駅とも、あと僅かでお別れ。現在の渋谷駅の姿や、そこを利用する人びとの想いを写したメモリアル写真集「DREAM TERMINAL」を手がけたのは、屈託のない笑顔が印象的な鉄道写真家・中井精也さんです。「ゆる鉄」など、新しい鉄道写真の楽しみ方を提案する中井さんは、今回の写真集をどんな狙いで取材し撮影したのでしょうか。さらに写真家を志した原点から将来のご自身の夢に至るまで、中井さんを虜にする鉄道が持つ魅力について思う存分語っていただきました。

撮影中にセンチメンタルな気持ちが吹っ切れた

--まず、東横線渋谷駅を撮影したメモリアル写真集『DREAM TERMINAL』を手がけての感想をお聞かせください。

東横線渋谷駅がなくなることに切なさを感じていたので、お話をいただいた時は、葬式列車のようにセンチメンタルなタッチで撮影しようと思っていたんです。ところが、写真を撮りながら東横線の利用者にインタビューをしていくと、意外とみんな、あっさりしているんですよ。「なくなるんですか。残念だけど、もっと便利になるのでしょうね」といった感じで。「楽しみだ」という人もたくさんいました。そういう話を聞くうちに、私自身の中でも、都市とは変化を続けて成長するものだという気持ちに変わり、自由に楽しく撮影をさせていただきました。東横線渋谷駅が地下に切り替わる3月15日・16日も、夜を徹して撮影したいと思っています。

中井さんならではの視点に切り取る「東横線渋谷駅」のメモリアル写真
※クリックすると拡大画像を見ることができます。

--どのような作品づくりを心掛けたのでしょうか。

渋谷駅で撮影中の中井さん

私自身は常に「旅情」を感じてもらえるような写真を撮りたいと考えています。旅情と一言で言っても説明は難しいのですが、「鉄道のある風景っていいな」「鉄道に乗ってみたいな」という気持ちを持っていただきたいと。『DREAM TERMINAL』では、旅情に加え、「日常」を織り交ぜることを心掛けました。親子が手をつないで踏み切りを渡っていたり、電車を眺めている猫がたたずんでいたり、本当にちょっとしたことですが、何気ない光景から日常の素晴らしさを感じていただけたら幸いです。最初は、東横線と渋谷駅〜代官山駅の区間だけで一冊の写真集をつくるのは無理があるのでは…と思いましたが、表情豊かな光景をたくさん見つけられて、『DREAM TERMINAL』はとてもよい出来になりました。ただ、一つだけ心残りなことが。実は、ずっと雪景色の中の東横線を撮りたいと思い、ポイントも決めて降雪を待っていたんですよ。ところが、東京に大雪が降った1月14日は、たまたま、パリに撮影旅行に出ていたんです。本当に運が悪かったとしか言えません。

写真集『DREAM TERMINAL』では、東横線渋谷駅を愛するたくさんの笑顔を収録。

「彼女に喜ばれる鉄道写真」が私のコンセプト(笑)

--中井さんから見て東急渋谷駅や東横線の魅力とは?

渋谷駅の特徴であるクラム型の壁面
写真:『DREAM TERMINAL』より

先日、パリのターミナルを撮影してきましたが、コストや利便性の追求だけではなく、建物に意気込みを感じるんですよね。同じように東横線渋谷駅のターミナルも、かまぼこ屋根やめがね型(クラム型)の壁などの意匠がとてもいいなと感じていました。今回、利用客の皆さんに話を聞くと、東横線に特別な思いを持っている人が多かったですね。「私は東急線沿線に住んでいるんです」などとプライドを持って話す人も多く、路線への愛情をひしひしと感じました。東横線渋谷駅が地下化することで、これからは街の再開発がますます進むと思います。ここ1年間、じっくりと変化を見てきましたので、これからどのように街が変わっていくのかとても興味があります。個人的には、昭和の匂いを引きずっているようなエリアはできるだけ残してほしいですね。

--中井さんは、「ゆる鉄」というキーワードで、他の鉄道写真家とは一味違った写真を撮られています。鉄道写真に対するお考えを聞かせてください。

すごく具体的な話から始めますね(笑)。中学生の頃、『みゆき』という漫画にはまり、どうしても彼女がほしくなりました。そして妹がいる友だちから女子校の文化祭のチケットを譲ってもらい、彼女をつくろうと試みたんです。その頃、すでに鉄道写真を撮り始めていたのですが、普通に車体だけを撮った写真を見せると、「ふーん、電車が好きなんだ」といった極めて素っ気ない反応でした。ところが、花畑の中を走るローカル線の写真だと、目を輝かせて、「行ってみたい!」と非常に好反応なんですよ(笑)。この時に、僕の鉄道写真家としてのコンセプトが決まりました(笑)。まあ何といいますか、鉄道が好きな人だけではなく、一般の人が「鉄道に乗ってどこかを旅してみたい」と思わせるような、鉄道の持つゆるい雰囲気を表現することが「ゆる鉄」の目的です。誰でも、夕暮れ時のプラットフォームなどで、ふと旅情を感じることがあるのではないでしょうか。鉄道は単なる交通機関であるだけではなく、上京や帰郷など人生の節目に大きく関係しますから、私たちの心に迫るものがあるのかもしれません。これがアメリカなら、ルート66などのハイウェイに旅情を感じるのかもしれませんね。

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