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KEY PERSON キーパーソンが語る渋谷の未来

渋谷を中心に活躍する【キーパーソン】のロングインタビュー。彼らの言葉を通じて「渋谷の魅力」を発信します。

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関口正人さん
(THINK GREEN PRODUCE代表)

渋南エリアはブルックリンやミッション。まだ気づかれていない魅力があるのが、このエリアの魅力だと思う。

プロフィール

1972年、東京生まれ。大学卒業後、大手不動産会社に入社。ニュータウン開発の販売や不動産仲介、宣伝広告等の実務を通して、不動産事業を経験。ベンチャー企業を経て、2000年に都市デザインシステムに転職し、コーポラティブハウス事業のコーディネーターとして数々のプロジェクトに携わる。新規事業として「クリエーターズ・コラボレーション」をテーマにしたプロジェクトを複数立ち上げ、2008年に湘南・七里ヶ浜に複合施設「WEEKEND HOUSE ALLEY」を開発主体としてプロデュース。同施設内のレストラン「bills」国内一号店を事業主体として運営し、パンケーキブームの火付け役として注目を浴びる。同年、THINK GREEN PRODUCE設立。「GARDEN HOUSE」や「LOG ROAD DAIKANYAMA」「スポル品川大井町」など、様々な商業施設や店舗、ブランドを、コンサルティングからオペレーションを含め、統合的にプロデュースしている。

ホテルを起点にじわじわと旨味が広がり、まちを美味しくしたい。

_さて、2015年に開業した東横線線路跡地の「ログロード代官山」に続き、今年9月に開業した複合施設「渋谷ブリッジ」もプロデュースされています。渋谷ブリッジではプロデュースのほか、ホテル、飲食店の運営までを手掛け、関口さんの今までの経験を生かした集大成となっています。今回の渋谷ブリッジをどうのように練られてきたのか、教えてください。

「ログロード代官山」は柴田陽子さんの総合プロデュースの下、僕らが基本計画を担当しました。建築家やランドスケープデザイナーの選定から、まち全体の雰囲気のコーディネーションまで、東急電鉄、柴田陽子さんらと共にゼロからつくり上げた商業施設です。今回の「渋谷ブリッジ」の仕事も、ログロード代官山のご縁があり、基本計画やリーシングなどがある程度進んでいる段階で参加しました。建築設計なども概ね決まっていたので、主に僕らが担当したのはコンセプトの具体化や意匠を含めたディテール部分です。もともと東横線の線路跡地のため、その鉄道のイメージを外装などに落とし込んだり、渋谷と代官山をつなぐ橋渡しを行う施設という意味を込めて、「ブリッジ」というネーミングを付けさせていただいたり…。また、当初からホテルをつくるという計画もあったのですが、僕らが参加した時点でテナントが決まっていなかったため、「それならホテル運営も僕らにやらせてほしい」と。

左)渋谷ブリッジB棟の外観 右上)マスタードホテルの入口付近 右下)遊歩道から続くA棟の自由通路は、東横線線路跡の面影を偲ばせるデザインが特徴。

_ホテルビジネスを行うのは初めてだと思いますが、手を挙げることに不安はありませんでしたか?

実はどこかでホテルがやりたいなと考えていて、以前から事業化の準備は進めていました。また、今までにも「TRUNK HOTEL(トランク ホテル)」など、いくつかのホテルプロジェクトのコンサルティングに関わった経験があったり、来年以降にもコミットしているホテルプロジェクトがいくつか進んでいたり…、と全くの未経験というわけでもなかったんです。そういった意味では、不安は全くありませんでした。

_渋谷という立地を踏まえて、具体的にどんなホテルにしようと考えたのですか?

立地というよりも、コンセプトとターゲットですね。ホテルにはADR (Average Daily Rate=平均客室単価)という指標があって、価格と面積でおおよそのホテルのブランドポジショニングが決まってくる。そのグレード感も然るべきなんですが、ただ僕が考えるホテルの在り方は、どちらかといえば、カルチャー軸というか、価値観軸で捉えてもいいんじゃないかというもの。たとえば、たくさんお金を払える人が必ずしもラグジュアリーホテル、高いホテルに泊まりたいわけじゃないですよねと。たくさんお金もっている人でも「僕は気分的に雑魚寝とかして、面白い連中と船底で旅している雰囲気で過ごしたい」という人がいてもいいじゃないですか。一方で僕らがいくらラグジュアリーホテルをやろうと言っても、投資も多額に必要ですし、オペレーションも知識も必要ですし、参入障壁も高い。そう考えると現実的には、そう簡単に出来るものではない。自分たちが出来るホテルは、おそらく「ビジネスホテル」の領域だろう。ただ、日本のビジネスホテルというのは「宿泊特化型ホテル」を言うわけですが、僕らの場合は「宿泊特化」じゃなく、「コンテンツミックス」のビジネスホテルであっていいじゃないかと。また僕らは飲食であったり、その他のオペレ−ションを強みとしているため、そのカルチャーコンテンツを複合したホテルに仕立てていこうと考えました。きっとそれは渋谷でもハマるだろうと。ホテルと併設するこのレストラン「Megan – Bar & Patisserie(ミーガン バー&パティスリー)」にもDJプレーができる音響設備を整え、パーティーやエキシビジョンなど様々なイベントができるようにしているのも、そのためです。

_特に渋谷はドミトリータイプの部屋が少ないので、ニーズがかなり高そうですね。

渋谷区はラブホテル条例が背景にあるため、ホテルビジネスをやりたくてもそもそもやりにくい、という状況があったのも要因でしょう。現在、僕らの手掛ける「MUSTARD HOTEL(マスタードホテル)」の部屋総数は約80室。稼働率は週末がほぼパンパン、平日が50%くらいで徐々に増えています。おそらく最終的には平日でも80、90%くらいになると思います。当初は外国人の比率が7,8割くらいかなと予想していましたが、現状は日本人と外国人の割合は半々くらい。アジア人よりも欧米や米国系が多く、半分遊び、半分ビジネスのような感じの人が目立っていますね。2020年に向け、もっと外国人旅行者が増えるだろうと見込んでいます。

左)渋谷ブリッジB棟マスタードホテル 窓が大きく明るい客室(ダブル) 右)渋谷では珍しいドミトリータイプの客室。

_今後のホテルの用途として期待していることは?

僕らはホテル事業者として、ホテルをやっているという感覚はなく、あくまでも「まちづくり会社」「生活提案会社」「文化づくり会社」としてホテルをやっています。「マスタード」のネーミングも、ホテルがあることで「まちが美味しくなる」「まちに隠し味がきく」という意味を込めています。当然、ホテルは宿泊客の拠点なのですが、以上じゃないですか。だから僕らはコンテンツミックスして、美味しいファインフードやカルチャーと掛け合わせて、そこを拠り所にしていきたい。それから、もう一つは「情報発信」をしっかりやっていこうと考えています。現在、ホテルの事業収支は80〜85%で採算性が取れるように設定していて。残りの15〜20%の幅の中で、タダで泊まれる「フリーステイ」をどんどん取り入れていくつもりです。その宿泊バーターとして、まちづくり、生活提案、カルチャーづくり、まちに対する隠し味という点で何かをしてもらおうと。それを「クリエーターズ・イン・マスタード」と呼び、最大で1カ月間のフリーステイを用意しています。

既にニューヨークで有名なベジタリアンレストラン「スペリオリティハンバーガー」がクリエーターズ・イン・マスタードの第一弾として宿泊し、ここでベジタリアン向けハンバーガーのポップアップショップをやるなど、ここから情報発信をしてもらっています。クリエーターが泊まることで、まちの人びとがホテルに来る機会が増えて、接点が生まれれば化学反応も起きます。今や人がメディアそのものになっていますので、アーティストがインフルエンサーとなって、彼らのSNSを中心にアウトプットしてもらえば、それだけで広報宣伝につながります。それがまちの吸引力となって、マスタードホテルを起点にじわじわと旨味が広がり、まち全体が美味しくなる。「今日は天気がいいから、マスタードにでも行くか」と、まちの中でポジティブな時間消費の選択肢の一つになっていけたらいいなと思うんです。

渋谷ブリッジA棟の自由通路入口付近で撮影。

”商売下手”な僕らはカウンターカルチャーでやっていきたい。

_東横線線路跡地の「ログロード代官山」「渋谷ブリッジ」「渋谷ストリーム」の各施設内で直営レストランを展開されていますが、隣接するエリアの中で、それぞれの飲食店にどんな特徴づけや差別化を行っているのですか?

GARDEN HOUSE CRAFTS外観。コテージを思わせるウッディーな空間が広がる。

特に差別化していることもないのですが、個々のお店の在り方を考えた上で、それぞれの特徴づけを行っています。まず、ログロード代官山内の「GARDEN HOUSE CRAFTS(ガーデンハウスクラフツ)」ですが、あそこはもともと東横線が走っていた線路の上。線路は利便性を提供する反面、恵比寿と代官山を縦に分断する要素にもなっていました。そこで僕らの役割は、それをつなげることだろうと。公園のように人が溜まれて、「毎日、人に来てもらえるコンテンツって何だろう?」といろいろ検討した結果、「パン」がいいだろうと。かつ、あそこは駅前でもないので、パンを通じて分断されていた「まち」と「まち」がつながるだけではなく、人と人との交流が生まれる場になればいいなと考えました。開業から5年を経て、徐々に代官山のまちに定着しつつあるなと感じています。

左側が「厨房スペース」、右側が「販売スペース」、奥側に「カフェスペース」を持つ「Megan – bar & patisserie」。手前は清潔感が漂う「白」、カフェスペースは落ち着いた「ダークブラウン」を基調にした内装が特徴。

続いて、渋谷ブリッジ内に今回オープンした「Megan – bar & patisserie」ですが、ここはニューヨークでいうところの「ブルックリン」、サンフランシスコでいうところの「ミッション」みたいなイメージで捉えています。つまり、今まで何も認識されていなかった「渋南」というエリアにスパイスをきかせて、面白く出来たらと。そのスパイスがホテルとの複合コンテンツです。もし、ここが飲食店だけだったら、立地的にお客さんが付くまでに結構時間が掛かったでしょう。ホテルとの複合で稼働率が増えれば、飲食も必然的によくなるという好循環が生まれています。

GH ETHNICA外観。渋谷川沿いのオープンスペースは開放感があふれる。

さて、3つ目の渋谷ストリーム内の「GH ETHNICA(ジーエイチ エスニカ)」ですが、こちらはもう少し頑張んないといけないなと。お店の前には大きな広場があって、川沿いの遊歩道があって、駅近くの路面という立地でもあるため、あそこはもう少しストリート感というか。ざわざわとしている中で人びとに寄り集まってもらうようにしていかないといけないのですが、まだキャッチアップできていない。いま業態的にスカッとしているのですが、そこをもう少し改善する必要があります。僕らのビジネスは空気感みたいなところが特徴なのですが、駅ビルとか商業施設の中はもっと勉強が必要だと最近感じています。とはいえ、基礎トレが出来ていないなら、もっとトレーニングが必要だと感じます。貢献性ばかりが強いだけでは、やりたいこともやれなくなる。儲けるコンテンツではちゃんと儲けて、貢献性と事業性の両極のバランスを取ることが必要だなと。現在はまちの背景の中で各店舗のキャラクターを作っているのみで、3店舗のつながりや連携をどうするかまでは考え切れていません。今後一体的に考えていきたいなと思っているところです

_渋南エリアの今後の可能性について、どんな風に感じていますか?

渋南エリアというよりも、渋谷全体に言えることですが、個性を出せるまちというか、個性があるまちというか。渋谷であり続けるまちというか、それぞれのエリアが役割を担っていくことが必要かなと思う。具体的にいえば、駅前の再開発をはじめ、当たり前ですけど2020年という一つの節目に向けて非常に活発化していますが、同時に「まちの均一化」も進んでいます。東京のどの駅に行っても駅前は便利で、ある一定のクオリティが担保されている一方で、「没個性」というか、どこの駅に行っても、極端なことをいえば、渋谷だろうが新宿だろうが、東京だろうが品川だろうが、たいして変わらないみたいな。「駅=まち」としたときに、各まちの匂いがなくなっている。家賃の問題も当然あるのだけど、まちの色、まちの匂いを出していくためにはドーナツの真ん中ではなく、駅からちょっと離れたドーナッツの外側が大事なんじゃないかと。要するに「渋南」や「奥渋」がその外側部分に当てはまります。先ほど、渋南をブルックリンやミッションと言いましたが、このエリアの魅力はまだ魅力として気づかれていないこと、魅力として表面化していないところ。だから、このエリアではディベロッパーもプレーヤーも、ドーナッツの真ん中では出来ないことが求められていくでしょう。

_七里ヶ浜プロジェクトしかり、今まで何もなかったエリアに価値づくりを行うのが関口さん流なんですね。

うちの会社はお金儲け、商売が下手だと思う。上手い会社は、最小限の投資と効率でたくさんのプロフィットを産み出せる会社。今の時代でいえば、ITやバイオテクノロジーなどでしょう。まず、僕らはアナログなサービス業をやっている時点で、商売が上手くないですよね(笑)。さらにコーディネートワークという面倒くさいことをやっている点でも上手くない。サービス業の中には、資本効率を上げるためにセントラルキッチンを作ったり、共通マニュアルを作ったりして、僅か数年であっという間に100店舗くらいに成長させている会社もたくさんあります。じゃあ下手くそな僕らが、誰もが上りたい土俵にのって勝てるのだろうか? その一方で競争の激しいレースの中で、仮に勝つためのやり方があるとしたときに、果たしてそれは僕らが本当にやりたいことなのか。やっぱり違うなと。そもそも商売下手な僕らがやるなら、誰もいないところ、家賃の安いところ、失敗しても分からないところでやるくらいの方が思い切ってできるし、表現力も高い。そういう位置づけというか、メインストリームに対するサブカルチャー、カウンターカルチャーという感覚があって、それが僕らの好ましいスタイルかなと思っています。

_最後に今後の仕事を進める上で、どのようなスタンスを大事にしていこうと考えていますか?

どんどん情報化社会とグローバリゼーションが進む中で、やはり日本人は日本人であったほうがいいなと思う。東京で生まれ育った人は東京で生まれ育った人であったほういい。田舎の人は田舎の人であったほうがいいなと思う。偏屈なことを言うつもりはないのですが、人間には個性がある、オリジナリティ、アイデンティティがある。同じようにまちにも国にもあるなと、それがオリジナリティになった方が結果的には面白い。どこも同じだとつまらないじゃないですか。「なぜ、渋谷がいいなと思うのか?」と考えたときに、渋谷じゃないところを見ているときにそう感じることが多々あるんですよね。「隣の芝」の原理です。渋谷だけはなくて、カントリーサイド、都市と自然、この両極性をちゃんと私生活や仕事の中でも捉えていきましょうよと。僕が鎌倉に住まない理由もそういうことなんですが、東京に住んでいるから、サーフィンに行ったときにいいなと感じる。ずっと海にいたら、今度は東京がいいなと思えてくるかもしれない。その両極性をしっかりとり捉えて、「まちづくり」「生活提案」「カルチャーづくり」をやっていけるのが理想ですね。

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