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KEY PERSON キーパーソンが語る渋谷の未来

渋谷を中心に活躍する【キーパーソン】のロングインタビュー。彼らの言葉を通じて「渋谷の魅力」を発信します。

プロフィール

宮本亜門(演出家)

1958年1月4日生まれ、東京都出身。出演者、振付師を経て2年間ロンドン、ニューヨークに留学。1987年オリジナル・ミュージカル「アイ・ガット・マーマン」で演出家としてデビュー。翌88年に同作品で「昭和63年度文化庁芸術祭賞」を受賞。2004年オンブロードウェイにて「太平洋序曲」を東洋人初の演出家として手がけ、2005年同作はトニー賞の4部門でノミネート。2008年2月米・ワシントンのジャパンフェスティバルでは、ドリームガールズのヘンリー・クリーガーを起用したオリジナル・ミュージカル「UP IN THE AIR」を発表した。2009年4月に渋谷シアターコクーンにて音楽劇「三文オペラ」を演出したばかり。7月は渋谷・パルコ劇場でミュージカル「サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ」を予定している。

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新人のひとりのつもりで、ゼロから挑戦的なことをしたかった。

--それでは渋谷での公演について。先日、シアターコクーンでの「三文オペラ」が終了しました。お疲れさまでした。

シアターコクーンは大劇場と違う、中劇場の良さがありますね。大劇場の観衆を動かすにはいい意味でも悪い意味でも「技術」が必要です。だけれどシアターコクーンはちょうど程よく、すべてが行き届く空間でした。それに松尾スズキさんのように、才能ある演出家たちが活躍する劇場で、僕は新人のひとりのつもりで、ゼロから挑戦的なことをしたかったという思いでした。

--例えばどのような挑戦を?

このあいだドイツのベルリンで感じたんです。劇場という建物の中だけが演劇の空間じゃない、それは我々の固定概念からの錯覚だと。そこにあるすべてが演劇で、すべてが人間ドラマで、どんな形でも演劇は作れるし、劇場の中でこそドラマを作るという考えが、実はもう古いのではないかと。一流の演出家たちがあえて劇場を使わず、ロビーや路上でお芝居をしている。それはすごく自由で、いい意味で一般の人たちを巻き込み、演劇に対する強い興味が生まれる。それが根源的なドラマの力だと思うんですよ。僕は今、こうしたことに興味があるんだなと強く感じたんです。

「三文オペラ」は劇場の中でやりましたが、舞台の床を全部剥いでしまいました。あえて破壊して劇場だとは思わせない。その中で演劇をするというやり方です。シアターコクーンの方もかなり驚いていましたし、観客含め賛否両論だったみたいでしたが(笑)。演劇とは何か?と考えたとき、渋谷には色々な場所があるし、もっと街に出てもいいかなと思うんですね。それを許容できる街であると思いますし。

真白のキャンバス。そこにドラマが塗られていく。

--それでは、7月からパルコ劇場で始まる公演について。ブロードウェイ・ミュージカル「サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ」はどのような作品ですか?

今回の題材であるジョルジュ=スーラという画家は31歳で死んだのですが、点描画というスタイルを生み出し、当時あまりにも斬新すぎてギャラリー展示も拒まれたというくらい変わった芸術家だった。酷評されながら、それでも何かを表現したかった彼の人生ドラマが第一幕になっていて、彼のひ孫にあたる現代のアーティスト・ジョージが登場する第二幕へ移行する。現代美術というフィールドの中で頑張りながらも壁にぶつかり、自問自答してゆくというストーリーです。「ものを作るとは?」とか、「アートとは?」とか、「人生とクリエーションとは?」というテーマがあり、その中に「生きているとは?」というもうひとつのテーマが重なり合います。テーマが深く、美しい作品です。

--演出をするきっかけとなったのは?

僕にとって高校時代からのアイドルだった、スティーヴン・ソンドハイムという作曲家が、2000年に僕が日本で演出した『太平洋序曲』を偶然観てくれて、「ブロードウェイでやろう!」と誘ってくれたのがそもそもの始まりです。彼の存在は大きな憧れでしたから、出会えただけで奇跡中の奇跡だったのが、今では友人になれて。もう80歳を過ぎたおじいちゃんなんですけどね、彼はとても実験性に富んでいて、アートとエンタテイメントを上手に混ぜながら、実に印象的な物語を生み出した人物です。僕は彼に対するリスペクトがものすごく強い。その彼の作品を、パルコ劇場という前衛的な作品をたくさん生み出してきた場所で、それも小劇場に近いタイトな空間で見せてみたいのです。

--大劇場や、またはシアターコクーンとは違った演出をするのですか?

458席しかないパルコ劇場でミュージカルをやるというのは大きな賭けです。普通なら5、6人でも済む小劇場での芝居が、キャスティングだけで20人近くもいる。それに生のオーケストラが入ります。「よくぞ、パルコ劇場のような空間でやるな」という感じですし、「最初で最後なんじゃないか?」というくらいリスキーな企画ですね。この値段でこれだけの要素が詰め込まれた内容が見られるのは、実に贅沢というか・・・僕が言うのも変な話ですが(笑)。役者のため息がはっきり聞こえ、ハープの最後の一音まで聞き取れる。ジョルジュ=スーラの美しい点描画と同じような繊細さを、存分に味わえるはずです。

--「実力派揃い」といわれるキャストについては?

確実に歌えて、芝居の表現がしっかりできるという人たちをキャストしました。僕の「違いが分かる男」の後輩に当たる石丸幹二さんと(笑)、表現力もあって気さくな戸田恵子さん。このふたりを軸に実力溢れる役者さんたちが勢揃いしました。

--一番の見所は?

あえて先に種を明かしますが、舞台とは「キャンバス」です。真白のキャンバス。そこにドラマが塗られていくので、心を研ぎ澄ませたいときとか、自分自身に立ち返りたいときには、この作品は面白いと思います。美しい音楽とドラマとがシルクのように重なり合ってゆく。音楽にも注目して欲しいです。芝居だと恥ずかしくて言えない表現が、音によって表せる力が音楽にはあります。見えない部分の空気まで満たしてくれる音楽がドラマと重なるとき、現在、過去すべてを越えた人間たちの関係性が見えてくると思います。過去に生きた画家ジョルジュと、ひ孫である現在のジョージが、どういう風に絡んでくるのか。そんなパズル的な部分が、音楽とともに浮き上がるはずです。成熟した物事について深く考えたい大人のための作品ですね。

--それでは今後のことについて。仕事、プライベート含め、今後やってみたいことは?

小規模ですがこのあいだアートの展示をやりました。昨日ギャラリーと話し合ったら「来年もまたやろう」ということになり、ちょっと興奮しています。それと来年はロンドンで舞台公演が決まりそうなのでとても楽しみです。僕は基本的にジャンルを超えた付き合いが大好きで、色々な人間と会話するのを楽しんでいます。だから「家パーティ」がお気に入り。昨日も友達の家へ行ったら30人くらい集まっていて・・・でもね、僕だけなんです、50代なのは(笑)。みな大体20代で、僕も精神的には20代半ばのつもりですが、12時過ぎると自然と眠くなってしまう。情けないというか・・・体力だけはねえ。でも彼らの発想は本当に面白い。ジャンルの違う人たちがそうして集まり、いま生きていることの面白さを話し合ったりするのが、僕にとっては一番の刺激かな。演出家とはいえ、やっている作業はただの「コラボレーション」ですし、彼らを色々な形で結んでいきたい。だから色々な人と出会えるパーティです、今後一番やりたいことは(笑)。

■作品情報

ミュージカル『サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ』
〜日曜日にジョージと公園で

19世紀末、パリで活躍した画家、ジョルジュ・スーラ。「点描」という手法を用いて、新たな芸術を創り上げた彼が残した傑作《グランジャット島の日曜の午後》は、世界的に知られる名画です。その「絵」にインスパイアされた一人の音楽家、スティーヴン・ソンドハイム。彼はスーラが描いた1枚の点描画から見えてくるメッセージを、珠玉のメロディと詞に置き換えて、ミュージカル『サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ』を創り上げました。作家から絶大な信頼を得る宮本亜門が、『スウィーニー・トッド』以来2年ぶりにソンドハイム作品を演出。キャストは劇団四季を退団し、今後の活動が注目視される石丸幹二と、三谷幸喜新作の『グッドナイト スリイプタイト』の公演が記憶に新しい戸田恵子。わずか458席という贅沢な空間で、壮大な「人生」というハーモニーが奏でられます。

公演:2009年7月5日(日)〜8月9日(日)
会場:パルコ劇場
料金:10,000円(全席指定・税込)
作曲・作詞:スティーヴン・ソンドハイム
演出:宮本亜門
出演:石丸幹二、戸田恵子、鈴木蘭々ほか
問 :パルコ劇場 03-3477-5858
公式ページ:サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ

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