武士の一分
上映・公演は終了しました。

2006年/日本/121分/配給:松竹
譲らない心。譲れない愛。
人には命をかけても守らねばならない一分(いちぶん)がある。
三村新之丞(木村拓哉)は近習組に勤める三十石の下級武士。城下の木部道場で剣術を極め、藩校で秀才と言われながらも、現在の務めは毒見役。不本意で手応えのないお役目に嫌気がさしながらも、美しく気立てのいい妻・加世(檀れい)、父の代から仕える中間の徳平(笹野高史)と、つましくも笑いの絶えない平和な日々を送っていた。
そんなある日、新之丞の身を、そして心も揺るがす事変が起きた。いつものように役目を務める新之丞が、藩主の昼食に供された貝の毒にあたったのだ。激しい痛みに意識を失い、居宅に運び込まれ、高熱にうなされ続けた新之丞は、加世と徳平の必死の看病で辛くも一命を取り留めた。
一時は藩主暗殺を狙った謀略か?とお家を揺るがした事件も、料理人が危険を伴う食材を供しただけの不始末とわかり、責を負って広式番・樋口作之助(小林稔侍)が切腹をして一件落着となった。
毎度のことながら、騒々しく見舞いにやって来た叔母の以寧(桃井かおり)が帰ると、新之丞は薄目を開けたが、見えるべきものが見えないことに気付く。剣術で鍛えた頑強な身体は猛毒に耐えたが、引き換えに光を奪い去られたのだ。 加世のお百度参りもむなしく、一生を暗闇の中で過ごさねばならないと知った新之丞は、武士としての奉公もかなわず、衣食のすべてに他人の手を借りなければ生きていけないと絶望し、自ら命を絶とうとする。
そのとき加世は「みなし子だった私をあなたのご両親が引き取ってくんなはったときから、あなたの嫁になることがただひとつの望み。あなたのいなくなった暮らしなど考えられましね。死ぬならどうぞ。私もその刀ですぐ後追って死にますさけ」、そういって泣きながら新之丞にすがりつき、死ぬのを思い留まらせるのだった。
間もなく、新之丞の今後の暮らし向きについて以寧ら親戚たちが問題にしはじめた。本家に呼ばれた加世は、以寧の父から、藩の有力者に顔の利く者に家禄の半分でも据え置いてもらえるよう口添えを頼みに行けと命じられる。加世の脳裏に浮かんだのは、番頭・島田藤弥(坂東三津五郎)の顔。嫁入り前からの顔見知りで、つい先日も町外れの道ですれ違ったときにも「いつでも相談に乗る。遠慮はいらぬ」といってくれた人物だ。
やがて城から新之丞の処遇について、「三村の家名は存続、三十石の家禄はそのまま。生涯養生に精を出せ」という、寛大な沙汰が下される。その夜、久しぶりに軽口を言った新之丞は、加世に「死ぬのはやめたさけ、刀を床の間に戻しておいてくれ。刀は武士の魂ださけ」と頼む。加世は生き続けることを決めた新之丞の笑顔を、そっと見つめていた。
藩主からねぎらいの言葉をもらうための登城もすませ、暗闇での生活にも次第に慣れてきた頃、新之丞は以寧から、加世が男と一緒に歩いていたという噂を聞かされる。「加世はそげだ淫らなことをする女ではありましね」と以寧を追い返す新之丞だったが、疑念はぬぐいきれない。煩悶の末、彼は徳平に加世を尾行させる。
当たって欲しくない予感は的中した。徳平の報告は新之丞の願いを粉々に打ち砕いた。茶屋での加世の密会の相手は上士である番頭・島田藤弥。名門の出自を鼻にかけ、尊大な振る舞いで知られた男だが、能吏として藩政上層部の覚えもめでたく、剣術の手だれでもある。
激しい詰問に耐えかねて意を決したのか、加世は搾り出すような声で事実を打ち明けた。口添えを頼むために邸宅を訪れた加世に島田は体を要求し、その後も脅迫めいた言辞を使ってもてあそんだことを。
「妻を盗み取った男の口添えで、たかだか三十石を救われて喜んでいた俺は犬畜生にも劣る男だの」と冷ややかにいう新之丞は、さらに「俺の知っている加世は死んだ」とつぶやく。「あなたのお命守るためでがんす。そのためだば、わが身はどんげな目あってもいいと思った」、「ひと思いに殺して欲しい」と願う加世に新之丞は、離縁を言い渡す。天涯孤独の身で頼るあてもない加世は手早く身の回りの荷物をまとめ、動転する徳平を振り切って夜の闇に消えて行った。
木々が色付く秋。新之丞は木刀を手に、剣術の稽古を始める。少しづつ勘が戻ったある日、必死の思いで師匠・木部孫八郎(緒形拳)の道場を訪ね、手合わせを願い出た新之丞は、免許を授かったときに伝えられた言葉を口にする。「ともに死するをもって、心となす。勝ちはそのなかにあり。必死すなわち生くるなり」。裂帛の気合で打ち込む新之丞に異常を感じ取った木部は、助太刀を申し出るが断られる。新之丞は"一分"をかけた戦いをひとり挑むことに心を決めていたのだ。
近習仲間から事の次第を聞かされた新之丞は、島田が口添えなどまったくしていなかったことを知る。その卑怯な振る舞いを知った以上、もはや一刻の猶予もない。「これは武士の一分にかかわることだ」。新之丞は藩内きっての使い手、島田との"一分"をかけた果し合いに臨むのだった......。
邦画
監督:山田洋次
出演:木村拓哉、檀れい、桃井かおり、坂東三津五郎、笹野高史、小林稔侍、緒形拳
料金:施設参照
※表示されている料金は全て税込みです。
※やむを得ない都合により、開催スケジュール及び内容が変更になる事があります。詳細は各主催者へお問い合わせ下さい。