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渋谷は皆の「やりたいこと」を許容する街 それがカオス的な文化を生み出している

1996年の開局以来、渋谷の音楽シーンをリアルタイムで紹介し続けるSHIBUYA-FM。今回は、その設立の中心メンバーであり、10年間にわたって音楽を中心に渋谷カルチャーの変遷を見つめてきた神谷幸鹿さんにお話を伺いました。

選曲にはこだわり抜く。開局以来、すべての番組を自社で制作している。

--SHIBUYA-FMの開局の経緯を教えていただけますか。

もともとは学生時代のサーフィン仲間が中心になって立ち上げました。サーフィンというと少しナンパなイメージがありますよね。でも僕らのサークルは他のスポーツをしているのが先輩に見つかると、強制的に合宿に連れていかれるような体育会系でした(笑)。ともあれ、卒業後、僕は出版社に入って雑誌を作り、現在、SHIBUYA-FM代表取締役を務める松田は広告関係に務めていました。マスメディアに関わるうちにコミュニティメディアやコアマーケティングといった言葉に触れるようになり、1992年には全国に先駆けて函館市にコミュニティFMの「FMいるか」が誕生したことを耳にした。コミュニティFMは、規模は小さいながらも一般の人々が直接、声を発信でき、地域密着の特性を持つメディアです。マスメディアとは対照的ですが、そうしたコミュニティFMの可能性に強く引かれるようになったのです。

--渋谷を選んだ理由は何だったのでしょうか。

学生時代から渋谷は特別な街でした。買物も、映画も、友だちと会うのも、ほとんどが渋谷でしたから。音楽やファッション、さらに広い意味でのサブカルチャーも含め、僕らの興味を満たしてくれる街が渋谷だったのです。でも放送局を立ち上げるのは想像以上に大変で、「よし、やろうか」と動き出してから開局までの準備期間には5年間もかかりました。その間には本当に多くの方々のお世話になりましたね。昔から代官山に住む穴田泰治さんには世話人をお願いし、80歳を超える今も会長を務めていただいています。開局の日に(1996年)4月28日(=「渋谷の日」)を選んだのは、当時の区長のアドバイスでした。

--SHIBUYA-FMは、どのようなコンセプトでスタートしたのでしょうか。

渋谷はセンター街というイメージが強いですが、実はレコードやCDなどの音楽ソフトが世界一充実していて、大小さまざまなライブハウスも集まっている。さらに全国的には無名でも、渋谷では熱く支持されるミュージシャンも数多い。もし渋谷限定のヒットチャートがあれば、それは全国的なものとは全く異なるでしょう。そういう渋谷独自の音楽シーンをコアなファンだけでなく、一般の方々の耳にも届けるのが開局以来のコンセプトです。その方針を貫くためにはインディペンデントである必要性を感じています。そこで賛同者に少しずつ出資を募っていますが、大株主は存在しません。今、全国には約200局のコミュニティFMがあり、その約半分は第三セクターによる運営で、残りの多くは地場の企業が実質的なオーナーになっていますから、僕らのようなケースは非常に稀だと思います。その分、経営は楽ではないですけどね(笑)。

--番組づくりのこだわりを聞かせていただけますか。

開局以来、すべての番組を自社で制作しています。そのようなケースは他のコミュニティFMでは聞いたことがありません。恐らく僕らだけでしょう。その一線を頑なに守るのは、どの番組を聴いたリスナーにも「やっぱりSHIBUYA-FMは違うな」と感じてほしいから。肝心の放送内容にもこだわっています。20〜40代の方々がSOHOやカフェで聴くのを想定していますので、音楽をメインに編成し、昼間は1時間のうち50分間は曲をオンエアして、10分間は行政情報やトラフィック情報を流しています。夜間は渋谷を拠点に活動するアーティストが登場し、その作品を紹介する番組が多いですね。音楽がメインですから選曲にはこだわり抜き、DJにはパリコレの選曲を担当したり、ヨーロッパツアーをしたりするほどの実力派を揃えています。本当に選曲だけは大手の放送局に負けない自信がありますね。さらに、これは役割の違いですから否定するつもりはありませんが、マスメディアは渋谷のカルチャーを一過性のムーブメントとして発信してきた。それとは逆に僕らは、音楽を中心にさまざまなアーティストが活動する現場に身を置いて、一緒に作品を発信し、共に成長するというスタンスを貫いてきました。そうでなければコミュニティFMの意味はないと思っています。

小単位のコミュニティが渋谷を良くする。僕らはそのお手伝いができれば。

--神谷さんは、渋谷と他の街との違いは、どのような点にあると思いますか。

個人が経営するショップの多さは渋谷の特徴ですよね。渋谷には、ショップの経営や起業を目指すインディペンデントな若者が多い気がします。そういう一人ひとりの集合がカルチャーとなり、トレンドを生み出しているのですからすごいことですよね。都内に話題のスポットが誕生しても、渋谷からいっこうに人が減らないのも頷けます。ただし、人が集まることによる弊害もあって、昔から渋谷に住んでいらっしゃる方の生活を圧迫している側面もある。特に渋谷には高齢者が多いですからね。知り合いがヘアサロンやアパレル関連のショップを開き、隣の民家にあいさつに行っても会ってくれなかったという話を何度か聞いたことがあります。そういう齟齬を仕方のないこととして済ませるのではなく、とても難しい問題ですが、双方が気持ちよく過ごせるような努力は必要でしょう。そして、その重要な役割をSHIBUYA-FMが担えればと思っています。

--地域とのつながりを意識した活動はされているのでしょうか。

まだまだ不十分ですが、例えば毎年、渋谷区民フェスティバルに参加してチャリティーバザーを行っています。それを放送でお伝えすると、リスナーから着なくなった衣類などが大量に集まりますね。また思い出深い一件としては、以前、20代の女性から「祖母が外出して行方が分からなくなり、警察にお願いしても見付からない。ラジオを通して探してほしい」という電話がありました。すぐに放送で呼びかけると、リスナーから「その人を見た」という連絡があったのですね。そういう時には僕らの声がしっかりと届き、コミュニティが機能しているのを実感して本当に感動しますね。これまでには商店街の組合をはじめ、地元の方々とも深く付き合う機会もありました。渋谷には意外とオープンマインドな方が多いですよ。年2回、「ノードラッグキャンペーン」としてアマチュアのミュージシャンによるライブを行っていますが、その旗振り役も地元商店街の若旦那の方です。このように商店街などの小単位のコミュニティが渋谷を良くするためのアイデアを練り、それぞれに実践してゆけば、徐々に街は変わっていくのではないか。僕らはそのお手伝いをできると嬉しいですね。

--そのほかに今後の渋谷に望むことはありますか。

意外にも渋谷には緑が多いですよね。代々木公園にも、あれだけの木々が鬱蒼と茂っている。そういう環境を守るとともに、ピクニックなどに限定せず、もっと解放して親しめる場所になってほしい。今は禁止されてしまったホコ天(歩行者天国)でのパフォーマンスは、文化の発信に他なりませんでしたからね。あれを見たイギリスのパンクバンド・クラッシュのジョン・ストラマーは「世界のどこにも、あり得ない光景。ロンドンだと暴動が起きている」と驚いたと言います。ああいう文化は無くしちゃいけないと思うし、こうしたカルチャーに行政の理解と支援も必要ですね。崇高なものだけが文化じゃなく、カルチャーもサブカルチャーも大事だと思います。ハードじゃなくて人のパワーが渋谷の強みじゃないでしょうか。

--最後に、今後のSHIBUYA-FMのビジョンをお話しください。

今年4月にSHIBUYA-FMは開局10周年を迎えました。今後も、渋谷エリアに住んでいない方が聴いて、「こんなFMがあって羨ましいな」と思ってもらえる放送を心がけていきたいと思います。現在、ラジオ業界は厳しい状態ですが、インターネットによる二次配信が開始され、コミュニティFMも来年の春をメドに認可される予定です。日本のみならず、世界全体に発信されるのですから、これは我々を含めたラジオ業界にとって大きなチャンスです。そうした環境で存在感を発揮するために、良質な音楽を紹介することにこだわり、「渋谷ならでは」の番組を作り続けるつもりです。

■プロフィール
神谷幸鹿さん
「現場を知らずして、発信はできない」をモットーに、営業、編成、制作、選曲、イベントプロデュース、戸締り・お茶出しを担当。桑原茂一氏、久保田麻琴氏、石井志津男氏などを尊敬する。SHIBUYA-FM78.4MHz 専務取締役。

SHIBUYA-FM SHIBUYA-FM1996年4月28日開局。周波数は78.4MHz。実力派のDJをそろえて、音楽シーンを中心に渋谷のカルチャー情報をオンエアする。同時に、行政情報や交通情報、エンターテインメント系の情報も発信。スタジオは渋谷マークシティウエスト4階で、スタジオの様子は外からも観覧できる。聴取エリアは半径約5キロ圏内。

SHIBUYA-FM

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