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【レポート】渋谷計画2040 イノベーションを起点とした「渋谷らしい」地域経済循環を目指して 

渋谷都市シンポジウム
イノベーションの舞台としての都市 2020年の先の渋谷

〇日時:2018年10月17日(日)15:15〜
〇会場:渋谷ストリーム
〇主催:渋谷都市シンポジウム実行委員会
〇登壇:後藤太一(モデレーター)

現在、渋谷駅周辺では大規模な再開発が進んでいる。東京五輪を控える2019年秋には、渋谷ヒカリエの向かいに「渋谷スクランブルスクエア(東棟)」、渋谷駅西口側の東急プラザ跡に「道玄坂一丁目駅前地区」、2020年春には宮下公園に商業施設やホテルが開業。さらに五輪後には「渋谷スクブルスクエア(中央棟・西棟)」、「渋谷駅桜丘口地区」の本格的な開発工事も始まる。再開発の完了は、2027年を予定している。

▲渋谷駅周辺完成イメージ(2027年) 画像提供=渋谷駅前エリアマネジメント

では再開発後の渋谷は、一体どんな街になるのだろうか。

過去の歴史を見れば、1964年の五輪後に「昭和40年の不況」で景気が著しく悪化しており、今回の五輪後も消費の冷え込み、経済の落ち込みが懸念される。さらに超少子高齢化社会が否応なく加速し、経済の担い手である生産年齢人口(15〜64歳)も大幅に減少する。総務省が発表する「自治体戦略2040構想」によれば、2015年〜2040年までに生産年齢人口は1750万人も減少すると推計されている。神奈川県と埼玉県の人口を合算した規模に相当し、労働力の著しい低下は想像に難くない。ご多分に漏れず渋谷区でも2030年ごろをピークに人口が減少する見込みだ。

その時に日本の、渋谷の経済活動はどうなるのだろうか?

20年後の未来を見据え、様々な社会状況の変化や技術革新を踏まえた上で「成熟した国際都市の実現」を目指すべく、渋谷区では長谷部区長就任後、2016年10月に「渋谷区基本構想」を20年ぶりに刷新。「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」という未来像を掲げ、「ダイバーシティ&インクルージョン」を強く打ち出した施策に取り組み始めている。中でも2015年に可決した「同性パートナーに証明書を発行する」条例は、LGBTに対する理解の高い区として一躍注目を浴びるきっかけとなった。LGBTはもちろん、性別、年齢、国籍、障がい、暮らす人、働く人、遊ぶ人、学ぶ人など、渋谷は多様性な人びとと共に快適に過ごせる街を目指していることがよく分かる。もともと渋谷には「カオス(混沌)」「モザイク」「マルチカルチャー」というイメージが強くあるため、違和感なく基本構想を受け止めている人もきっと多いことだろう。

渋谷区基本構想について(渋谷区ホームぺージ)

ただ、どんな立派な基本構想でも、それだけでは絵に描いた餅で終わってしまう。そこで渋谷区役所では基本構想の実現に向け、現在「渋谷区まちづくりマスタープラン」(2019年10月完成予定)の策定を進めている最中だ。2018年10月17日に開催された渋谷都市シンポジウム「イノベーションの舞台としての都市 2020年の先の渋谷」(渋谷ストリームホール)の中では、そのマスタープランの一翼を担い、産業振興の観点から練られた「渋谷計画2040」の発表が行われた。

このレポートでは、シンポジウムで発表された報告を通して、経済開発戦略「渋谷計画2040」がどんな過程で策定されたのかを紹介したいと思う。

渋谷区まちづくりマスタープランについて(渋谷区ホームぺージ)

シンポジウムに登壇したのは、リージョンワークス合同会社 代表・後藤 太一さん。福岡天神のまちづくりを推進する「一般社団法人We Love天神」の理事の一人である後藤さんは、「天神まちづくりガイドライン」を作成するなど「まちづくり」のスペシャリスト。渋谷では、渋谷駅前エリアマネジメント協議会のアドバイザーとして、まちづくりに深く関わっている。

▲まちづくりのスペシャリスト・後藤太一さん

そもそも「渋谷計画2040」は、渋谷区から渋谷再開発協会に「文化・エンタテイメント分野」「産業振興分野」を軸とした経済開発戦略プラン策定の依頼を受けたところから始まった。渋谷の商店会や町会、企業などから構成される渋谷再開発協会では、「まちづくり」のスペシャリストである後藤さんらを中心に開発・経済委員会を組織し、2017年9月から2018年の3月までの半年間にわたって議論を深め、「渋谷計画2040」の作成を行った。

計画策定前、後藤さんは「渋谷の中に漂う危機を感じた」という。「再開発が進み、2020年のオリパラがやってきて素晴らしい話がたくさんある一方で、2040年までを考えると、働き手が激減していること」。さらにもう一つ、「皆さんからの声で多かったのは『渋谷らしさ』が薄れているのではないかというもの。再開発でまちの至るところにクレーンが立ち、街の姿が刻々と変わっている。そこには良いこともあるが、懸念を持つ人も多かった」と振り返る。

枠組みの設計として「政策への反映−都市・経済政策」「集合知−担い手の暗黙知」「科学的根拠−論理性と弾力性」「着眼大局・着手小局−短期行動」の4つ点を押さえながらプランづくりを進めていったという。

まず、「集合知」という点から見ていった時、一人のコンサルタント、一人の知恵に依存するのではなく、まちの人びとの知恵をしっかりと取り入れるために「町会や商店会、企業など渋谷に関わる35人の人びとに参加してもらい検討チームを組織した」。ただ、集まって意見を交わす場を作るだけでは、会議だけやって終わるケースも多いため、「半年に4回、ワークショップを実施し、参加者35人の声をなるべく多く引き出した」といい、渋谷に関わる当事者の知恵を重視したという。
続いて、3つ目は「科学的な根拠をちゃんと持とう」ということ。1枚のきれいな絵を描くだけの構想ではなく、「きちんとしたデータ分析のもとで、論理的に組み立てられていけなれば意味がない」。そこで様々なデータやグラフ、地図、まちに出て撮影した写真など、すべてのデータを十分に集めてから丁寧に議論を行ったという。

最後4つ目は「着眼大局・着手小局。大きく考えましょう、そして小さく始めましょう」。だいたい大構想を考えると、静止画として本棚の中で眠ってしまうことが多いが、計画が出来たら、次のアクションに結び付けることが大事であるという。「特に東京は2020年に大きな節目がくる、渋谷にもすごい人が集まるでしょう。この2年間でどれだけのことが動かせるか、ここが動かなければ、その後の20年も何も動かないでしょう」。五輪後、2020年以降からのアクションプランではなく、まずは短期行動として「2020年までに可視化できる先導事業を実施していくことが大事である」と力を込める。

▲検討対象エリア:渋谷駅から半径2kmのエリア

計画で対象となるエリアは、渋谷駅を中心に半径2km圏内。このエリアをロンドンとニューヨークの中心部を同じ縮尺で比較した場合、「オフィスだけ、住宅だけ、お店だけではなく、モザイク状に個性的な地区が隣り合っているのが3都市の特徴である」。いわば、渋谷はロンドン、ニューヨークに引けを取らない複合地域であり、世界都市に仲間入りできるポテンシャルを持つ都市であることが明らかとなったという。

▲ロンドン、ニューヨークと似ている「まちの用途」

ロンドン、ニューヨークと並ぶポテンシャルを持つ渋谷は、将来どんな街を目指すべきなのだろうか。基本構想で「成熟した国際都市を目指す」とは述べているが、これは他の都市でも同じことが言える。「そこに『渋谷らしさ』を加えて、もう一段プランを具体化していく必要がある」という

その「渋谷らしさ」をひと言でいえば、「ストリート文化である」と断言する。路面のまちである渋谷は、民間が各々の通り(ストリート)で自由に様々なカルチャーを生み出してきた経緯があり、そのおかげで今日の個性的で多様な地区がある。後藤さんは「その資産を生かしていくことが、次の渋谷、未来の渋谷を考えるきっかけになる」と語気を強める。

詳しいデータ(PDF)

次に「事務所の分布」「商業分布」「住宅の分布」「ビジネス目的の人の移動」など、渋谷の空間情報を含むデータを収集し、渋谷が持つまちの特徴を細かく分析。その地域診断から「渋谷らしさ」を生かした経済開発に最も有効な目標として、「イノベーションが活溌に起きるまち」というテーマをまず考えたという。確かにイノベーションが起きると、公共空間の質が変わっていき、結果的に良いまちが出来る。その環境の中で新しい暮らしが生まれ、さらにその暮らしに憧れて観光客や来街者が増加。まちに新しい人たちがやって来れば、その次に新たなイノベーションが起きるという循環が生まれていく。「どこからでもいいのですが、循環を起こすため、まずは一旦イノベーションというテーマから始めることにした」(後藤さん)という。

ただ、「イノベーション、イノベーション……」とはみんなが言っているが、「世界でイノベーションが起きている地域はそう多くない」。そこでイノベーション地区の在り方を改めて参考書で調べてみると、「最先端のものがあり、その周りに応援団的な人達が集まっている。そして、コンパクトにまとまっていて、交通機関にアクセスしやすい暮らしがある街」と定義されるそうだ。

加えて、「世界的に競争力のある拠点の周りにしか、イノベーションは起きていない」という。幸いにも渋谷には「メディア」「エデュテイメント(エデュケーション+エンターテインメントを組み合わせた造語)」「テクノロジー」分野における競争力のある3つの拠点がそろっていると論じる。まず「メディア(NHK起点)」という点では、2020年以降に建て替えを予定するNHKを起点として、その周辺の多様な担い手との交流が強化されていく。次に「エデュテイメント起点」では、かつて「こどもの城」「東京都児童会館」など、こども教育の先端をいく街としての記憶を呼び覚ましながら、周囲の教育・研究機関と連携して新しい学習や体験ができる場をつくり、未来を担う人材との交流が強化していく。最後の3つ目は「多国籍テクノロジー企業起点」。グーグルやシブヤビッドバレーに参画するIT企業と、周囲の多様な担い手との交流や連携が強化され、スタートアップや新規事業が常に生まれる好循環が起こる、という期待が寄せられる。

詳しい資料(PDF)

「渋谷計画2040」が描く将来像として「3つを拠点としながら、多様な担い手たちが集積・交流し、エリア全体で新しい価値の創出に向けて共創しづけられる街を目指す」という方向が指し示された。

前述の通り、「2020年までの2年間に何が出来るかが大事である」(後藤さん)という声があったが、実施計画の中では2018年から2020年までの2年間の施策だけでも、計画全体の半分以上のウエイトを占めている。たとえば、「大山街道(宮益坂と道玄坂を結ぶ道)の再整備」は既に進んでおり、現在宮益坂では「歩行者中心の道路空間の実現に向けた社会実験」(期間:2018年10月1日〜26日)が行われている最中である。そのほか、「東大など都内5大学による渋谷スクランブルスクエアでの連携」「渋谷川の再生と遊歩道の整備」など、この半年間だけでもかなり多くのプロジェクトが既に動き始めている。

詳しい資料(PDF)

とかく構想は作りっぱなし、絵に描いた餅で終わることが多いが、渋谷再開発協会では「渋谷計画2040」の実現に向けて継続的にモニタリングやレビューを行いながら、「渋谷がイノベーションの舞台になれるように見守っていきたい」という。そのためには「渋谷区役所、再開発協会だけでは足りず、16万人の渋谷区民、34万人の渋谷で働く人びとに、いろいろな形で関わってもらうことが大事だろう」と報告会を締めくくった。

2040年までにイノベーションを起点とした「渋谷らしい」地域経済の循環を持続的に構築していくためには、まずは2020年のオリパラまでに、たとえ小さなアクションだとしても可視化できる先導事業に取り組み、結果を出していくことが求められる。仮に2020年までにうまくいかなければ、その先も難しいというわけだ。この2年間の活動が、将来の渋谷を占う上での大事な期間といえそうだ。

渋谷計画2040について(渋谷再開発協会ホームぺージ)

編集部・フジイタカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。

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