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渋谷再開発の工事仮囲いをキャンバスに 8人の作家がアート作品公開

渋谷駅周辺の再開発事業の一つである「渋谷二丁目17地区第一種市街地再開発事業」の新築ビル工事の仮囲いで12月1日、アート作品を掲出する「渋谷二丁目アートプロジェクト」の公開が始まりました。

渋谷ヒカリエに隣接する同再開発は、もともと青山通り沿いにあった「シオノギ渋谷ビル(1980年竣工)」「渋谷アイビスビル(1961年竣工、1984年増築)」「渋谷東宝ビル(1971年竣工)」「太陽生命渋谷ビル(1968年竣工)」のビル4棟を、高さは約120メートル、地上23階建てのビル1棟に建て替える計画だ。
▲2024年5月竣工予定の地上23階建ての複合施設のパース(青山通り側から見たイメージ)。画像提供=渋谷二丁目17地区市街地再開発組合

1階〜4階の低層部は、路面のにぎわいや憩い空間を創出するため、商業機能や広場などを設け、5階〜23階はオフィス(総賃貸面積約249,25平方メートル)。2020年12月から解体工事が始まり、今月から新築ビル工事の着工が始まる。竣工は2024年5月を予定する。

現在、青山通りから渋谷ヒカリエ側まで敷地面積約3,460平方メートルを、白い仮囲いの塀がぐるっと囲む。今後、工事が完了する約2年半にわたり、この高い壁がこのエリアを覆うことになる。そこで物々しい工事現場周辺に少しでも彩りを与え、渋谷の街の魅力をより一生向上させるために、仮囲いにアート作品を掲出する「渋谷二丁目アートプロジェクト」をスタートすることになったという。

▲建設工事現場の仮囲いに掲出されているアート作品

プロジェクト立ち上げの経緯は、もともと同再開発エリア内にあった「渋谷アイビスビル」の地下に、田名網敬一や空山基、ダニエル・アーシャムらが所属するNANZUKAが2020年9月までアートギャラリーを運営していた縁から、NANZUKAが一般社団法人日本現代美術商協会(CADAN)と協働し、今回のアートプロジェクトの実現に至った。

▲渋谷ヒカリエに隣接する工事仮囲い。前方は青山通り

建設工事現場の仮囲いでは8人とアーティスト作品が掲出されているが、その選出にあたっては、CADANのメンバーギャラリーに向けて、「都市の移り変わり」をテーマに作品の募集を実施。計18作品の応募があり、渋谷という場所性、公共性、時代性などを審査基準として、最終的に8つのギャラリーから8人のアーティストを選んだという。参加アーティストは佃弘樹さん(NANZUKA所属)、石井海音さん(imura art gallery所属)、横山隆平さん(KANA KAWANISHI GALLERY所属)、野沢裕さん(KAYOKOYUKI所属)、森本美絵さん(MISAKO&ROSEN所属)、高倉大輔さん(TEZUKAYAMA GALLERY所属)、小林健太さん(WAITINGROOM所属)、田中功起さん(青山目黒所属)。

▲工事現場とアートの対比がユニークである

ヒカリエ側の白い仮囲いのキャンバスに上に、ドローイングやペイント、写真など、色鮮やかなアート作品が並び、無機質な建設工事現場の風景一変。工事現場とアートとの組み合わせで、ユニークな新たな景観を生んでいる。

▲石井海音さんが描いた作品「駅」。大きな目の少女キャラクターが石井さんの特徴である

今回、公開された作品をいくつか紹介したい。まず、駅のプラットホームに立つ女子高生を描いた作品「駅」を手掛けたのは、大阪在住のアーティスト・石井海音(いしい・あまね)さん。幼少期から「可愛い」少女たちを描き続け、その延長で現在も大きな目が特徴の独自キャラクターを中心に描ているという。デジタルペイントに初挑戦した今回の作品について、石井さんは「いつの時代か分からない、自分の空想の未来の渋谷駅を描いた」といい、ルーズソックスを履く女子高生たちの背面にある駅の壁には、現在の渋谷の街のポスターが貼られているが、その壁の上からは木々がうっそうと生い茂るジャンルグのような景色がのぞく。さらにプラットホームの下、本来は電車が走っている線路には水辺が広がり、水鳥と戯れる少女たちの姿も見える。「水辺に電車が来るのか、それとも船なのか……、一体、未来の渋谷駅はどうなっているのか?」と皆さんのイメージを膨らませてほしいという。観る人にとって感じ方や捉え方が異なるのもアートの魅力の一つ。「可愛らしさ」「不気味さ」が共存する作品といえるだろう。

▲アーティスト佃弘樹さんと作品「Rebuilding the grown roots of desire」

もう一つ、渋谷らしい作品として、NANZUKA所属のアーティスト佃弘樹さんが手がけた「Rebuilding the grown roots of desire(成長した欲望の根を再構築する)」を紹介したい。SF映画やTVゲーム、アニメーション、音楽、小説などの影響を受けた近未来的な世界観を持つ作品で知られる佃さんであるが、今回の作品はかつて同再開発エリア内にあった建物やNANZUKAギャラリーなどをテーマにしている。「もともとギャラリーが併設する地下スペースに7、8年アトリエを構えていた」といい、同地にとても深い思いがあるという。「土地には情念が染みついていて、地下のアトリエにも思いがたくさんこもっていたと思う。今後、この土地の上には新しい施設が出来るが、その情念はきっと残る。この絵の中には、アトリエがあったビルの古い写真なども取り込んでいるが、そんな土地に染みつく思いや歴史をイメージしながら即興的に作品を仕上げた」という。都市や街は建物が作っているわけではなく、そこで過ごし、そこで生きる人々によって作られている。その歴史の重ねの中で、都市や街は育っていく。2024年に同地に新しい施設が生まれるが、今までの歴史の上に、さらに新たな人々の営みがそこにレイヤーのように重なり、その施設の魅力が形成されていくのだろう。そんな都市の根(roots)を、この絵から感じ取ることができる。

▲写真家・横山隆平さんが手がけた作品「WALL stanza」

そのほか、「渋谷の街」そのものを題材にした作品では、渋谷の街に描かれるグラフフィティを20年近く撮り溜めている写真家・横山隆平さんが手がけた「WALL stanza」。グラフィティを幾重にも出力し表現することで、変わりゆく都市の姿を見つめる作品。抽象画のようでもあり、何か混沌とした渋谷の本質が絵を通じて見え隠れするようなイメージが湧いてくる。

▲高倉大輔さんが制作した「monodramatic/Be fluid」

さらに高倉大輔さんが制作した「monodramatic/Be fluid」は、白い仮囲い前をロケーションとして人の持つ多面性や可能性、人々の中に渦巻く多次元の自分を物語と共に撮影した作品である。「時代が大きく移り変わるコロナ禍の都市における個人の価値観の変化や、想像することについて表現した」という。

気鋭のアーティストがそろった8人8様の個性的な作品がそろっている。昨今、スマホばかりを見ていて、なかなか周囲の景色や情報に目を向ける機会が減っているが、同エリアを通る時にはぜひ頭を上げてアート作品に楽しんでみてほしい。きっと自分に合うアート作品に出合えるはずだ。

掲出期間は2022年9月頃まで。

編集部・フジイタカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。

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