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「ミューラルアート」と「グラフィティ」の違いは!? 殺風景な「工事仮囲い」がアートの力で変貌

渋谷駅西口の工事現場で10月26日、「西口仮囲い」をキャンバスと見立てライブペインティングした「ミューラルアート(壁画)」が完成し一般公開が始まった。

この企画は渋谷駅周辺のまちづくり活動を行う「一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント」と、アートエージェンシー「Tokyo Dex(トウキョウ・デックス)」のコラボㇾ―ションで実現した。Tokyo Dexは2020年より、大きな壁画を描く機会が少ない日本の若手アーティストに向けて、練習の機会を与えるプログラム「Mural Rookies Project(ミューラル・ルーキーズ・プロジェクト)」を立ち上げ、国内外で活躍できる壁画アーティストの育成・輩出を目指している。今回の企画は「殺風景な仮囲いをアートでにぎやかにして、工事が続く渋谷の街のイメージを変えたい」という「渋谷駅前エリアマネジメント」の想いと、「若手アーティスト育成のための壁がほしい」というTokyo Dexのニーズがベストマッチしたものだ。

「Mural Rookies Project」の「Mural(ミューラル)」とは、建物や洞窟の壁や天井などに描かれた絵画のこと。つまり、「壁画」「ウォールアート」を意味する。約4万年前に描かれたといわれるインドネシアの鍾乳洞で発見された最古の「動物の絵」など、文字がない時代から先人たちは壁画で何かを伝えようとしてきた。いわば、ミューラルは、私たち人類の「文化の原点」ともいえる。

現代におけるミューラルは、シャッターやビル外壁、塀などに施されたアートを指す。一般的にストリートアートというと、グラフィティや落書きなど建物など所有者の許諾を得ずに行われる非合法な破壊行為も含まれるが、ここでいう「ミューラルアート」は、所有者の許可、同意を得て行われるアート行為を意味する。たとえば、オーストラリア・メルボルンでは、街中にミューラルアートが数多く描かれ、世界から人々を惹き寄せる「観光コンテンツ」の一つとして注目されている。また国内でも、神戸市の職員を発起人として「Kobe Mural Art Project(神戸ミューラルアート・プロジェクト)」が立ち上がり、街中にミューラルアートを増やす取り組みが始まっている。

若者の街「渋谷」では、どうだろうか? 80年代頃から、ニューヨークのストリートカルチャーに端を発し、ヒップヒップやストリートダンスなどと共に街中にグラフィティや落書きが増え始める。破壊的な行為として社会問題の一つとなった一方、バスキアやバンクシーらスターアーティストがストリートから生まれているのも事実。
▲宮下公園の外壁にインべーダーが描いた「鉄腕アトム」のドット絵(撮影:2015年3月)。今年、撤去されてネットで話題を集めた。

つい最近では、新しくなった宮下公園の外壁に、フランス人アーティスト・インベーダーがタイルで描いた「鉄腕アトム」のオマージュ作品が撤去され話題を集めるなど、グラフィティに対する賛否や論争も様々だ。

こうした歴史的な経緯やアートとしての価値を認めながら、最近では渋谷でも所有者の同意を得て行われる「ミューラルアート」が徐々に増えている。
▲シブヤ・アロープロジェクト。「→(矢印)}を使ったアートで災害時の一時退去場所の方向を示すプロジェクト。しりあがり寿さん、ヒロ杉山さんら著名アーティストが多数参加している。

例えば、渋谷区では「シブヤ・アロープロジェクト」といい、災害時の「⼀時退避場所」を、外国人を含めた来街者に認知させるため、避難場所の方向を示す「→(矢印)」を含めたミューラルアートを著名アーティストが描くという活動を進めている。渋谷と親和性の高い「ストリートアート」と「災害」を組み合わせたユニークな取り組みといえるだろう。

▲新しい「パルコ渋谷」建設時の工事仮囲いに施された「AKIRA ART WALL」(撮影:2018年6月)

さらに新しい渋谷パルコの建設時には「AKIRA ART WALL」とし、工事仮囲いに大友克洋さん漫画「AKIRA」の世界観を表現した漫画コマ絵のコラージュ作品を掲出。殺風景だった工事現場が、SNS映えするフォトスポットに変貌し話題を集めた。

▲「東急百貨店東横店」解体前にアーティストに解放され、シャッターや壁にストリートアートが描かれた(撮影:2020年9月)

▲「東急百貨店東横店西館」からハチ公前広場に下る階段(撮影:2020年9月)

東急東横店西館・南館の解体工事前にショップが立ち並んでいたシャッターや外壁を、アーティストたちに解放しストリートアートが出現。渋谷らしい圧巻の光景が広がったのを覚えている人もきっと多いことだろう。

さて今回、「西口仮囲い」で行われたライブペインティングだが、まず場所から見ていこう。JR渋谷駅南改札向かい、商業施設「渋谷フクラス」側に渡る歩道近くの工事現場。「渋谷スクランブルスクエア中央棟・西棟」建設に向け区画整理が進む、「西口仮囲い」の全長約12メートルの白い壁を活用し行われた。

▲渋谷駅西口向かいの「西口仮囲い」をキャンバスにライブペインティングが行われた。

制作に当たっては、「ミューラルアート」の経験を持たない若手アーティストをSNSなどで募り、静岡在住のアーティストJIRO(ジロー)さん、東京在住の画家・デザイナーKAISO(カイソ)さん、新潟在住のぺインターLITTLE YORKE(リトルヨーク)さん、東京在住のイラストレーターSHIO(シオ)さんの4人を選抜。さらに経験のないルーキーたちのサポート役として、国内外で数多くのニューラルアートを手がけるアーティストのJAY SHOGO(ジェイ・ショウゴ)さんが先輩として加わり、計5人のアーティストで「私にとっての渋谷」をテーマにライブペインティングが行われた

▲ライブペインティング中の風景

制作期間は10月21日〜26日までの計5日間。全長約12メートル×高さ1.5メートルの白い壁面を4つに分け、各アーティストが幅3メートルの壁面キャンバスを担当し、作品づくりに取り組んだ。

▲静岡在住アーティストのJIROさんの作品

JIROさんは、10年前の自分に向けて描いた作品。「自分のことが嫌いだった」というJIROさんは、週末渋谷で遊ぶことで自分を保っていたそう。カラフルで華やかな都会・渋谷で遊ぶ時間以外は、何をしても白黒映画のようだったと当時を振り返る。10年後、アートに出合い渋谷で絵を描いている自分を見て、「白黒の世界をカラフルに染めていくように自分の手で人生を色づけていくんだ」というポジティブな決意が湧いたといい、今回の作品にその思いを込めて描いたという。

▲東京在住イラストレーターのSHIHOさんの作品

SHIOさんは「ハチ公」「ビル群」など、渋谷のイメージをポップなカラーで仕上げた。

▲東京在住の画家・デザイナーのKAISOさんの作品

KAISOさんは、渋谷の谷から発する人々の熱気が地中熱となり、蒸気となって渋谷の銀色の天空に舞うイメージを描いたという。

▲新潟在住ペインターのLITTLE YORKEさんの作品

「渋谷は新しい文化や価値観を発信出来る街だと感じている」というLITTLE YORKEさん。色彩は渋谷で遊んだり、働いてる人々の明るい笑顔をイメージした明るいポップな色で表現。図形の円は「情報発信」、三角や線は「(情報発信するための)アンテナ」、黒いスクエアの連鎖は「スクランブル交差点」を表現したという。

各々テイストや個性の異なる4つの作品が仕上がった。さらに先輩アーティストのJAYさんは、各作品の境にラインアートを施し、個々の作品が一枚の絵に見えるような統一感を加えた。「渋谷の過去・現在・未来への時の流れ、渋谷につながる路線(場所と場所をつなぐ)、渋谷で働く人々、また渋谷に訪れる人々のつながり」をラインアートで表現したという。

▲DexTokyoのダニエル・ハリス・ローゼンさん

アーティストの選定からディレクションなどを担当したTokyoDexのダニエル・ハリス・ローゼンさんは「アーティストが絵を制作している風景やプロセスが見られることはまずない。5日間のライブペインティングを通して、昨日よりも色が加わったなど、日々変わる作品の進み具合が見られるのは、オープンスタジオみたいで面白い。さらにヘラの盛り上がりなど、印刷では表現できない質感も体感できる」とし、単なるプリントではないライブならではの良さが表現できたと自信を見せる。さらに「今回のように複数メンバーで制作する場合、互いに会話したり、助言などを受けて作品に影響を与える。(想定外の)即興、アドリブ的な要素が加わるのもライブペインティングならでは」とその魅力を語った。

西口仮囲いに描かれたアートの一般公開は12月31日まで。それ以降の継続や移設は未定。ストリートカルチャーの街・渋谷と相性の良い「ミューアルアート」というキーワード、今後、耳にする機会が増えそうだ。

編輯部 - Fujiitakashi

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