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ブエナ・ビスタ・キューバ

先日、「SHIBUYA BUNKA LIVE」コーナーの「キューバ特集」取材のため、TOKYO HIPSTERS CLUBで開催されている『近藤彰利 “60年代のキューバ”写真展』を鑑賞しました。どの写真も当時の情勢をよく伝えていて心を動かされましたが、中でも最も歴史的意義が高いであろう「革命の英雄フィデル・カストロとチェ・ゲバラ」と題された写真は、『ゴッドファーザー PART2』のワンシーンかと思うぐらい美しい構図に切り取られ、ブレのある粗い質感の粒子の隙間からは、熱のこもったスペイン語が聞こえてきそうなぐらい、迫力のある一枚でした。「日本人だからここまで近寄れた」という緊張感に満ちたこの写真は、報道写真家である近藤さんのキャリアを語る上で外せない一枚と呼べるでしょう。



僕が「革命」という単語から思い浮かぶ、物々しく重たいイメージとは裏腹に、会場に展示されているほとんどの写真には、それまでの独裁体制を打ち倒した「革命後だからこそ」写し出され得た、非常に健やかで気持ちの良い風景が並んでいました。いかにも南国らしい開放的な情景からは、政治的な匂いは薄まり、そこに生きる人々の明るい期待と躍動するような興奮がよく表れています。「保育園で給食を配膳している女性の髪の毛に、パーマのカーラーが巻いてありますね。これは仕事が終わって、街に出かけるときのための準備をしているんですって」とプレスの稲葉さんに解説され、改めて人々の服装や周囲の状況に目を向けると、一見、何気なく撮られたように見えるスナップ写真のディテールに、その当時の人々の心理状態が溢れんばかりに描かれていることに気付きます。サトウキビ畑で働く女性の屈託ない笑顔の上で誇らしげに映えるメイク。初めて海水浴をすることを許され、眩しそうに水浴びをする黒人の親子。真っ白なシャツを着て、新しい集合住宅の前でポーズを取る子どもたち。

Photographed by Kondo Akitoshi


革命後、キューバではどのように人々の意識や生活が変わったのでしょうか。この展示は、ニュースでは取り上げられることの少ない市井の人々の心の機微とともに、「成功か失敗か」という文脈では語ることのできない革命の影響をよく伝えてくれます。この国で最も有名なバンドの名前でもある「ブエナ・ビスタ(素晴らしい眺め)」とは、この国に住む人々の心情を上手く言い表している言葉のように思えました。展示は4月1日(日)までですので、是非足を運んでみてください。

編集部・M

1977年東京の下町生まれ。現代アートとフィッシュマンズと松本人志と綱島温泉に目がないです。

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