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篠原有司男さん夫婦の展覧会
「Love Is A Roar‐r‐r‐r ! In Tokyo
愛の雄叫び東京篇」

ギュウちゃんの愛称で知られる現代美術家・篠原有司男さんと、その妻乃り子さんの夫婦ふたりの展覧会「Love Is A Roar‐r‐r‐r ! In Tokyo 愛の雄叫び東京篇」が12月13日より、渋谷パルコミュージアムで始まった。同展は、ふたりの愛と闘いを記録したドキュメンタリー映画「キューティー&ボクサー」が12月21日より、渋谷シネマライズで公開されることを記念したもの。

ギュウちゃんといえば、ご存知の人も多いだろう。60年2月に開催された第12回読売アンデパンダン展に出展した吉村益信さんや赤瀬川原平さん、荒川修作さんら若手前衛アーティストで芸術集団「ネオダダイズム・オルガナイザーズ」を結成し、その中心的なメンバーとして活躍。中でも、ギュウちゃんの名を世に知らしめたのは、アメリカの写真家ウィリアム・クラインが撮影した写真集「TOKYO」(1964年刊)に収められた「ボクシング・ペインティング」だった。
写真集「TOKYO」(1964年刊/撮影:ウイリアム・クライン)

以後、反抗的なモヒカン刈りの前衛アーティストは、路上パフォーマンスでアートシーンを駆け上がっていく。2004年にポカリスエットのCMで福山雅治さんと、ボクシング・ペインティングで競演したシーンを記憶している人も、きっと多いことだろう。

乃り子さんとの出会いはNY。1969年、ギュウちゃんは渡米し、ちょうど同じ時期に乃り子さんも美術を学ぶために留学したのがきっかけ。その後、ふたりは恋に落ち、結婚する。若くして結婚した乃り子さんは「苦労と悩みの連続だった」と結婚後の生活を振り返る。自らもアーティストとして活動を続けながらも、妻であり、母であり、ときにアシスタントであり…、様々な苦労と悩みを抱えながら歩んできた。ある意味、ギュウちゃんの後ろに隠れる存在であった乃り子さんだったが、2006年に自らをモデルにしたキューティー・シリーズを手がけ、徐々に自分自身の個性を発揮していく。同シリーズはアーティスト同士の夫婦のカオスに満ちた40年の歴史を、自分の分身であるヒロイン“キューティー”、ギュウちゃんの分身である“ブリー”に託してドローイングや、コミックで綴っている。
「キューティー絵巻絵画」(篠原乃り子)

キャンバスに原色を激しきたたき付けるスタイルのギュウちゃんに対し、乃り子さんの作品はインディゴ一色で、とても柔らかなタッチで描かれているのが特徴。ところが、かわいらしい絵とは裏腹に、その内容はブリー(ギュウちゃん)との赤裸々な愛の日々、全裸で乳飲み子を抱え奔走するキューティーは苦しくて激しい。今まで内なる中にうっ積していたものが、一気に爆発したかのように。すべてをさらけ出し、泣き、笑い、そして愛の雄叫びを上げるパワフルなキューティーの姿に、真の女性の美しさを感じずにはいられない。

乃り子さんは「アーティストは、ストリップ、裸以上に内面をさらけ出さなければいけない」という。「ニューヨークで展覧会を行ったときに若いカップルが遊びに来たんだけど、このキューティー&ブリーの絵巻を観て、『女性が結婚生活は、こんなに大変なの〜』って泣き出してしまった」とエピソードを明かす。芸術家同士のハチャメチャな夫婦生活は、若い人には少々刺激が強いかもしれない。でも、そこには生々しい人間ドラマが描かれている一方、歳月を重ねてこそ分かる「幸せな人生」のようなものを感じ取ることができるのだ。

同展は映画公開を記念し、NYで開催された二人展を東京バージョンとして特別企画されたもの。作中で制作工程などが紹介された、ひと部屋の壁面一周にキューティー&ブリーのストーリーが描かれた大作「キューティー&ブリーの絵巻絵画」のほか、19枚のドローイングから構成される「キューティー&ブリー(本当のお話)」など、乃り子さんの作品が15点。一方、「モーターサイクル」などの有司男さんの代表作から、「蛙」をモチーフにした立体作品や「ボクシング・ペインティング」の最新作まで24点が展示されている。特にボクシング・ペインティングは、通常墨一色で行われる事が多いが、今回はカラー作品2点が展示されている点も珍しい。
「ウイリアム・クラインのためにボクシング!」(2013年8月20日、篠原有司男)

上写真は、ギュウちゃんが写真家ウィリアム・クラインのために制作したボクシング・ペインティングの最新作。2013年8月20日、ニューヨークで公開された映画「キューティー&ボクサー」の評判を聞いて、御年85歳になったクラインが約50年ぶりにギュウちゃんに会いに来たそうだ。その際、クラインの前で披露したボクシング・ペインティングがこれだ。その時の印象について、ギュウちゃんは「クラインは歩くのもおぼつかないほど歳取っていたが、撮影した作品はさすがだった」と変わらぬ実力に驚いたという。
「ポケモン・モーターサイクル」(2000年、篠原有司男)

最後に4年余りも夫婦を追い続けたドキュメンタリー撮影について、ギュウちゃんは「監督が外国人だったから何とかなった。裸を撮られても外国人だと気にならないし、日本語も分からないから(笑)」。一方、乃り子さんは「初め(ギュウちゃんは)意識して固くなっていたが、撮影が長期になるに連れてあまり意識しなくなったみたい。男女の闘いは全ての人に通じるテーマだと思う」とコメントを寄せた。

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編集部・フジイタカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。

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