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一人の男の生きた痕跡をたどって〜エリック・サティとその時代展〜

フランスの作曲家エリック・サティの生涯を、作家、画家、イラストレーター、演出家など芸術家たちとの関わりからひも解く企画展「エリック・サティとその時代展」が現在、Bunkamuraザ・ミュージアムで開催されている。

コンスタンティン・ブランクーシ《エリック・サティの肖像》
1922年 ゼラチン・シルバー・プリント フランス現代出版史資料館
Fonds Erik Satie - Archives de France / Archives IMEC

サティは1866年フランス・ノルマンディ地方に生まれた。1879年にパリ音楽院に入学するも身が入らずに退学。1887年、自由な発想の作家や芸術家たちが集ったモンマルトルで作曲家としての活動を開始した。拠点となったのは、最新のカルチャースポットとして知られたキャバレー「シャ・ノワール」。サティはそこで上演される影絵芝居の伴奏者を務め、この頃に代表作「3つのジムノペティ」を作曲している。

当時はヴァーグナーを中心としたロマン派音楽がパリを席巻していた時代。サティは象徴主義の画家たちを紹介する芸術活動「薔薇十字会」の聖歌隊長として、「ヴァーグナー風」音楽を演奏したこともあるという。転機となったのは1911年。作曲家モーリス・ラヴェルが公の場でサティの音楽を紹介したことをきっかけに、モード誌編集者による挿絵入り楽譜集「スポーツと気晴らし」を出版。その評価を確立していった。

第一次大戦中にはパブロ・ピカソ、ジャン・コクトーらと取り組んだバレエ公演「パラード」にて、公演の主題に合わせて大衆娯楽からの引用を取り入れた楽曲を展開。若い芸術家や音楽家からの評価を得て、既成の秩序や常識を否定・攻撃する芸術運動ダダイズムの芸術家たちと、活動を共にするようになっていった。1925年に没。現在では「音楽の異端児」と称され、ドビュッシーやラヴェルなど、以降の西洋音楽へ大きな影響を与えたとされる。

世紀末独特の退廃的空気に覆われたモンマルトルで活動をスタートさせ、ロマン派音楽の空気にも触れながら独自の音楽観を模索し、第一次世界大戦を経てダダイズム隆盛へのきっかけの一人となったエリック・サティ。同展では、サティが生きた時代の芸術史を背景に、現在では評価が確立している「サティ」という芸術家の変遷を紹介していく。

ジュール・グリュン《「外国人のためのモンマルトル案内」のポスター》
1900年 紙、リトグラフ モンマルトル美術館
Musée de Montmartre, Collection Société d’Histoire et d’Archéologie“Le Vieux Montmartre”

集まったのは、ジュール・グリュンによるモンマルトル案内のポスター、シャルル・マルタンによる「スポーツと気晴らし」の挿絵、コクトーによる「パラード」に関する覚書、マン・レイによるサティの写真をモチーフにしたオブジェなど。会場は時代別に区分けされ、セクション毎に当時サティが作曲した作品をBGMとして流す。サティという一人の人物の成長に沿って会場を進んでいくと、アールデコもダダもロマン主義も、芸術史ではなくサティを取り巻いた人物たちのリアリティを持った空気感として伝わってくる構成。サティ自身も同様に、ある時期を生々しく生き抜いた一人の人間にすぎないのだということが強く思い起こされる。
エリック・サティ(作曲)、シャルル・マルタン(挿絵)『スポーツと気晴らし』より《カーニヴァル》1914-23年 紙、ポショワール フランス現代出版史資料館 Fonds Erik Satie - Archives de France / Archives IMEC

芸術家にだって憧れの時期もあれば葛藤や誤解もある。軌道修正だってするし、褒められれば調子に乗る瞬間だってある。そして悩んで喜んで悲しんで楽しんで激動の時代を生き抜いた。展示品が伝えるのは、芸術的価値であると同時に一人の男が残した生きた痕跡。サティが好きな人もあまりよく知らない人も、ある芸術家がある時代、悩みぬいて生きた足あとを感じてみては?

エリック・サティとその時代展
〇開催:2015年7月8日(水)〜8月30日(日)
〇時間:10:00〜19:00 ※毎週金・土曜は21時まで
〇会場:Bunkamura ザ・ミュージアム /渋谷区道玄坂2-24-1
〇料金:大人1,400円ほか
〇公式:http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/15_satie/

編集部・横田

1980年生まれ、神奈川県在住。大学進学を期に上京して以来渋谷はカルチャーの聖地です。現在は渋谷文化プロジェクト編集部に所属しながら、介護士として働くニ足のわらじ生活です。

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