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原発付近で開催中の「実際には見に行くことができない展覧会」のためのサテライト展

Chim↑Pom、アイ・ウェイウェイなど気鋭の現代アーティストが福島県の帰還困難区域内で行っている展覧会「Don't Follow the Wind(以下、DFW)」のサテライト展が11月3日まで、ワタリウム美術館で開催されている。

DFWは東日本大震災からちょうど4年目を迎えた2015年3月11日、アーティストのChim↑Pomを発案者としてスタートした国際展。東京電力福島第一原子力発電所の事故により、現在も一般人の立ち入りが制限される「帰還困難区域」を拠点に、国内外のアーティスト12組が作品を展示。作品は正式な許可を得ることで、区域内に散在する避難住民の土地や家屋に設置された。しかし私たちが実際にその展示作品を見に行くことができるのは、帰還困難区域の封鎖が解除されて以降ということになる。震災から4年半を迎えた現在でも封鎖解除の具体的な目処は立っておらず、DFWは「実際には見に行くことができない展覧会」として、現在も多方面からなお深刻な問題が続く原発事故へのアンチテーゼとなっている。

国立公園や世界遺産などの訪問者のための案内所「Visitor Center」にちなんで、「Non-Visitor Center」と冠した同展。DFWのサテライト展として、帰還困難区域内に設置された作品に関連した各作家の展示や、DFWにまつわる資料展示、映画監督・園子温による映像インスタレーションなどを紹介する。

参加するのは、発案者Chim↑Pom、中国の現代美術家で社会運動にも力を入れるアイ・ウェイウェイ、批評家の椹木野衣と演出家の飴屋法水らによるグランギニョル未来、フランクフルト在住のキュレーターニコラス・ハーシュ、映像やパフォーマンスによる作品を発表しているアーティストで、森美術館による「MAMプロジェクト」にも取り上げられる小泉明郎ら、国内外の12組。加えてNon-Visitor Center展には、園子温や宇川直宏らも参加する。
完全に封鎖され観ることができない3階の展示会場。

DFWのテーマを大きく受け継いだ会場では、「見ることができない」という主題をスペース全体で表現する。作品はおもに3階の展示室に並べられるが、エレベーターで3階に上がると出入り口は封鎖されている状態。会場2階の吹き抜けに組み立てた特設階段を上ってガラス越しに3階の展示を鑑賞する仕組みになっている。
ガラス越しに鑑賞しなければならない展示会場の様子。
入り口には帰還困難区域出身の関係者らが区域の現状を伝える受付カウンターを設け、4階ではスカイプで東京・ミラノ・ベルリンのアーティストたちが会話する様子と、同時刻の帰還困難区域の風景を複数のモニターで上映する。

音声や映像、展示物のあちこちに顔を出す「帰還困難区域」。私たちが自由に訪れることが禁止されているその場所は、だれかの故郷であり、人が住めないほどの放射線量を有する場所であり、地震と津波の被害を今なお手つかずに伝える場所。DFWが伝える帰還困難区域は、今なお震災がもたらした爪痕を抱えて東京から2時間半のその場所に、ある。

見えないものを見せる、忘れていたものを思い出させる、知らなかった感情が湧いてくる、どれも「アート」という世界が私たち鑑賞者にもたらしてくれる特別な体験だ。そんなアートの力を通して、混乱期の現代に何を発信していくのか。DWFの取り組みは、アートを鑑賞するという上品な文化体験とはほど遠い。忘れっぽい私たちに何度も何度も問題意識を突きつける。同展で得た体験にどう答えていくのか、それはもう私たちの生き方の問題といってもいいのではないかと思う。

Don’t Follow the Wind Non-Visitor Center 展
〇開催:2015年11月3日(火)まで
〇時間:11:00-19:00(毎週水曜日は21:00まで延長、月曜休館)
〇会場:ワタリウム美術館 (渋谷区神宮前3-7-6)
〇料金:大人1,000円ほか
〇公式:詳細情報はこちら

編集部・横田

1980年生まれ、神奈川県在住。大学進学を期に上京して以来渋谷はカルチャーの聖地です。現在は渋谷文化プロジェクト編集部に所属しながら、介護士として働くニ足のわらじ生活です。

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