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駅そばの名店「本家しぶそば」
レビューサイトで異例の高評価を得る理由とは?

渋谷駅にある駅そばの名店「本家しぶそば」をご存じだろうか。その実力を表す証の一つが、食べログの評価で堂々の3.53を獲得していること(2018年3月30日時点)。駅そばとしては、破格の高評価といえるだろう。レビューは200件以上付いており、「満足した」「美味しい」「提供スピードが速い」など、賞賛のコメントが並ぶ。実際に店を訪れ、店長にお話を聞いて、その人気の秘密を探った。

|最初に驚かされるのが提供スピードの異様な速さ。

場所はJR渋谷駅の玉川改札を出てすぐ左手。一見すると、店構えは普通のそば屋に見えるが、暖簾の奥をのぞき込むと、立ち食いメインの店と分かる。▲山手線改札口から約15秒、井の頭線、銀座線改札口からでも徒歩1分以内の立地の良さ。
お昼のピークタイムを避け、13時過ぎに来店したが、行列は絶えなかった。ただ、回転率は速く、行列は次々に店内に吸い込まれていく。ほとんどの客はショーケースを見ずにサッと最後尾に付くことから、既に注文が決まっているリピーターであることが分かる。
▲券売機はなく、入り口レジで注文先払い。
行列の後ろに付いて入口のレジで「かき揚げそば(480円)」を注文し会計を済ませる。レジを担当する店員が「かーきーあーげー」と、独特のイントネーションでマイク越しに厨房に注文を通している様子。立ち食いの空いたスペースに入り、コートを脱ごうとしたその時、背後から「かき揚げそばのお客様?」と店員から声をかけられた。注文からまだ1分も経っていない。
▲席に着くやいなや、定員さんがメニューを持って席に向かってくる。
提供スピードもさることながら、食べる場所は指定されておらず、テーブルに伝票は置かれていないのに、どうして注文した客のところにまっすぐに商品を持って来られるのかも不思議だ。そんな疑問が浮かんで一瞬戸惑ったが、それは確かに自分が注文したものだったようで、早速いただくことにした。
▲かき揚げそば(480円)
普通の立ち食いそば屋とは異なり、ずっしりとした陶製の器に盛られたそばはボリュームたっぷり。揚げたてのかき揚げが、かつお出汁の効いた香り良い汁に溶け込んで食欲をそそる。そばもコシがあり本格的な味わいだ。この味なら、座って食べる普通のそば屋で出てきても十分に満足するレベルである。そんなそばが駅そばの値段や提供スピードで味わえるのだから、人気が出るのは当然だ。

水だけがセルフサービスで、食後に食器を下げる必要がないのも嬉しい。仕事の合間や電車の乗る前にサッと食事を済ませて素早く退店できる。その味とサービスに大いに満足し、店を後にした。

| 渋谷の本家を含めて「しぶそば」は11店舗を展開。

それにしても、本家しぶそばでは一般的な駅そばクオリティをはるかに超える味やサービスをどう生み出しているのか気になるところだ。ということで、店の人にお話を聞いてみた。
▲「『もう来たの?』と、提供スピードを驚かれるのが嬉しい」と、店長の伊達さん。
まず、店長の伊達翔さんにうかがった店の概要をまとめると次の通り。

開店は1980年代で、当時は井の頭線の改札外に位置していたそう。もとは「ふたば」という店名で、1990年代に現在地に移転し、2005年の改装したのを機に「しぶそば」に改称した。営業時間は7時から23時で年中無休。来客数は平日が圧倒的に多くて1日2000食(!)、土日は1200食が出るそうだ。客層で最も多いのは、昼間は断トツで男性ビジネスパーソン、夜間は仕事帰りの女性や学生なども増える。23時まで営業しているため、お酒を飲んだ後のシメに立ち寄る人も多い。

渋谷の本家(本店)のほか10店舗の分家があり、本家と二子玉川駅の分家の2店舗のみレジでの接客を行っている(他の店舗は券売機を使用)。また、全店舗で食材や製法は共通しているが、作る人や器具が異なるため微妙に味が異なり、全店舗を巡るコアなファンもいるそうだ。メニュー数は130種程度あり、駅そばの定番メニューはほぼ網羅している。

| 1秒でも速く提供し、その分、ゆっくりと召し上がってほしい。

続いて、最初に驚かされた提供スピードの速さについて、しぶそば担当マネージャーの梶勝さんに聞いてみると、こんな答えが返ってきた。ちなみに梶さんは「本家しぶそば」の元店長でもある。
▲「渋谷店を経験すれば、どこのお店でもやっていけます」と、東急グルメフロント営業サポート部・梶勝さん。
「開店当初から提供スピードにはこだわってきました。1秒でも速くご提供するのが、私たちのプライドというか、意地というか……。提供までの時間を短縮する分、できるだけゆっくりと快適に食事をしていただきたいという気持ちです」

提供の仕組みを聞くと、様々な工夫が隠されていた。基本はレジ係からマイクでオーダーが通った瞬間に作り始めるのだが、慣れたレジ係になると、注文を通す前の客との会話もマイクを通してさりげなく伝えているという。
▲レジでのやり取りで上手に時間を稼ぐことで、席での待ち時間を短縮しているという。
例えば、レジ係と客との「温かいそばにします?」「それでお願い」といったやり取りが聞こえた時点で作り始め、オーダーは確認の意味で聞いているそうだ。

客は自由に立つ位置(座る位置)を選べるのに、どうしてホール係はまっすぐに商品を持って来られるのだろうか。これについて伊達さんはこう答える。
▲フロア担当はお客さんがどこの席に着くのか、何気なくチェックしている。
「それはホール係が、お客様が注文後にどう動くかを注視しているからですね。お客様が移動する大体の順番を覚えておいて、商品ができた順に持っていくというわけです」と、伊達さんは事もなげに語るが、次々に客が入れ替わる中で、その対応をミスなく繰り返すのは至難の業にも思える。
「注文や提供にはリズムがあり、それに慣れればあまり難しくありません。ただ、どこかでミスがあると、リズムが崩れて一連の流れが滞るため、まれに一旦注文をストップするなどしてリセットすることもあります」(伊達さん)

| 早朝から3種類のかつおでじっくりと出汁を取る。

続いて、そばの味について聞いてみた。これについても絶対の自信を持っているようだ。

「厨房の当番は6時前から出勤して、3種のかつおを使い、水から丁寧な火加減で温度調節をして良い香りが出るようにだしを取ります。また駅そばは、ゆで麺を使う店が多いのですが、当店は生麺にこだわっており、お客様からは『そばの香りがいい』と、お褒めの言葉をよくいただきます」(梶さん)
▲厨房は6人体制がベストの布陣。一人でも減ると、ピーク時に混乱を招くこともあるという。
しぶそばの分家を訪れた客から、「本家(渋谷店)が一番美味しい」と言われることがよくあるという。材料や製法は一緒だが、本家は最も回転率が高いため、そばを茹でてから提供するまでの時間が短かったり、大量の揚げ物をするため油を変える頻度が高かったりすることが、要因ではないかと推測しているそうだ。なお、本家は他の店に比べ、どのメニューもボリュームが多い分、50円ほど高く値段を設定している。

人気メニューについても聞いてみた。

「全メニューでそばとうどんを用意していますが、そばの注文が7割ほどと圧倒的。個別メニューは、『かきあげそば』が注文全体の30%を占める人気です。女性には、『ちくわ天そば(480円)』も結構出ますね。また注文数は上位ではありませんが、『ぴり辛ねぎそば(500円)』も根強い人気なので、ぜひ召し上がってみてください」(梶さん)

| 開店前は決まったメンバーが行列、10年以上毎日のように通う客も。

食べログなどで高評価が寄せられていることは、どう受け止めているのだろうか。

「メンタルが弱いのでなるべく見ませんが……(笑)、高評価をいただいているのは知っており、とてもありがたく思っています。とにかくスピード重視のオペレーションのため、お客様とゆっくりと会話できないのは残念ですが、帰り際に『美味しかったよ』『また来るから』などと言っていただくことも多く、スタッフ一同、励みとなっています」(伊達さん)
リピーター率はかなり高く、感覚的には6割程度という。会社の始業前に毎日立ち寄る客も多く、行列の順番が自然と固定されているとか。また、10年ほど毎日のように通う客もいる。

「値段が安いし、毎日食べても飽きない。そのため、景気が悪化すると客足は衰えるどころか、むしろ伸びます。これからも味とスピードにこだわり続け、皆さんの1日になくてはならない店となることを目指します」(梶さん)

これからも、味、安さ、そして提供スピードの全てを妥協なく求める姿勢を是非とも貫いてほしい。

<店舗情報>
〇店名:本家しぶそば
〇住所:渋谷区渋谷2-24-1 東急百貨店東横店 南館 2F
〇電話:03-3464-4957
〇営業:月〜金 7:00〜23:00/土・日・祝 7:00〜21:00
〇公式:http://www.shibu-soba.jp/

取材・原稿作成:二宮良太 /撮影:佐々木俊英

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