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齋藤貴弘さん
(弁護士)

風営法改正の立役者が目指す「夜間市場の開拓」。人と人をつなぐ「ナイトカルチャーの創出」が、渋谷をもっと面白くする!?

プロフィール

1976年東京都生まれ、大学卒業後、2004年に司法試験合格。札幌での実務修習、栄枝総合法律事務所での勤務を経て、2013年に六本木・齋藤法律事務所を開設。2016年に弁護士の伊藤弘好氏と共にニューポート法律事務所を開設する。Let’s DANCE 署名推進委員会共同代表。ライブハウスコミッション・フード&エンターテイメント協会アドバイザー。

夜間市場を新たに開拓して「東京の夜」を盛り上げたい

_今回の風営法の規制緩和を契機に、今後、渋谷をはじめ、東京のナイトカルチャーの変化に大きな期待を寄せられています。すでに各業界の方々が新しい取り組みを始めていらっしゃると聞きましたが、具体的にはどんなことでしょうか。

今後の市場を見込み、「クラブディスコ系」「ライブ・エンターテインメント系」「ホテルレストラン、バー、カフェ、飲食店系」の3つの団体が生まれています。一つは、ディスコやナイトクラブのうち、従来の風俗営業の3号営業(ダンス営業店)を取っていたお店を中心とする「日本ナイトクラブ協会及び西日本クラブ協会」。それから、パルコやスペースシャワーなど、ライブハウスなどのライブ・エンターテインメント業界を中心とする「一般社団法人ライブハウス コミッション」、さらにもう一つが、ホテルやレストランとエンタメ業界からなる「一般社団法人フード&エンターテインメント協会(FFE)」です。飲食業界とエンタメ業界はこれまでは実はあまり接点がありませんでした。ただ、例えば、海外のホテルなどでは、ラウンジスペースやルーフトップなどでライブやDJが行われることも多く、人気スポットになっています。雰囲気も洗練され、大人も遊びに行きやすい場だと思います。

_同業者で団体を組むというのは、どういうメリットがあるのですか。

一つは「特定遊興飲食店営業」の許可取得のため、既存のクラブや飲食店、新規で遊興飲食店をオープンする企業に向け、各団体が申請をサポートしていくことがあります。また各団体で自主ルールを作り、健全性を担保していくことも大事です。仮に問題が発生した時でも改善できる態勢を整えておけば、業界と警察との良好な信頼関係を構築することも出来ます。あともう一つは、経済を推進していくため、夜間市場(ナイトタイムエコノミー)という新しいマーケットを作っていくこと。個々のお店がいくら面白いことをやっていても、それは個々のお店が面白いというだけであって、シーンやマーケットにはなかなかなりにくい。例えば、恵比寿にある「リキッドルーム」や、渋谷のスペースシャワーTVがやっている「WWW(ダブリューダブリューダブリュー)」などのライブハウスは、昔から際立って面白いアーティストを輩出しています。2店舗だけではなく、業界全体で連携することによって、渋谷の音楽的な魅力を全体的に高めやすくなると思います。魅力的なマーケットやシーンを作り上げていくためには、個々のお店だけではなく、複数の店舗が集まって業界を盛り立てていかなければいけないと思います。

中でも、一番大事なのは「時間市場」を新しく開拓して盛り上げていくこと。例えば、東京では交通インフラが重要です。地下鉄の運行時間の延長のための働きかけもしていく予定です。署名や個々の事業者の要望ではなく、事業者が団結して要望していくほうが断然強い発言力を持つことができる。また今後のインバウンドを考えれば、インフラとしての情報発信がすごく重要だと思います。どういうアプリで、どういう経路でこちらまでアクセスさせるか、それは個々の店舗でできる話ではありません。共通の利益になるものであれば、みんなで協力し合って進めていこうと。

人と人をつなぐ「ナイトソーシャライジング」の可能性

_経済効果のほか、ナイトカルチャーが持つポテンシャルをどう捉えていますか?

今年4月にオランダ・アムステルダムで開催された「NIGHT MAYOR SUMMIT 2016(ナイト・メイヤー・サミット2016)」でも、この話題は出ていたのですが「夜という時間帯は、ものすごいプレイグラウンド(活動の場)である」と。昼間ではできない表現が許されるなど、多様性が許容され、プレイグラウンドとしての実験性や遊び心が高まるのではないかと思います。あと「ナイトソーシャライジング」という言葉も言われていましたが、日ごろはインターネットの中で済ませているコミュニケーションが、夜だとフィジカルに触れ合う機会が増えます。例えば、何かが決まるときは日中の会議やカンファレンスよりも、むしろ二次会、三次会のアフターカンファレンスで意気投合して、上手くいくことが案外多いものですよね。人となりが分かって、物事がくっつきやすくなるという、そういう可視化できない価値がナイトカルチャーにはあると思います。そういう文化装置としてのナイトカルチャーが、街の魅力づくりには大きいでしょう。

_単純に経済の活性化だけを考えていては駄目だということですよね。

ナイトクラブを中心とした“シーン・エコノミー”という概念が、ナイトメイヤーサミットでは議論されていました。ナイトクラブにファッションやアート、IT、建築、飲食業界など、いろいろな分野の面白い人たちが集まってきて、そこからインスピレーションを受けたり、ネットワークを作って自分たちのビジネスに刺激を持ち帰るという、そこがクラブの本質だという考えです。クラブカルチャーはクラブ単体ではなく、クラブをハブとした多様なシーンで成り立っています。刺激を受けてそれを持ち帰るという意味では、ギャラリーや美術館にも似ているところがあると思います。

_期待感が膨らむ一方で、法整備が不完全な部分や、街の課題はありますか?

一つは地域規制が、大規模繁華街を想定している点です。渋谷区の場合は、ほとんどが商業地域のため営業上の問題が少ないのですが、それでも青山や代官山エリアでは繁華街になっているにもかかわらず、営業許可を取得できないエリアも多くあります。全て用途地域(住居、商業、工業など、土地利用を定める都市計画法)で区切っているからなのですが、それが指定されたのは30年前のことで、街のアップデートに全く追いついていないのが現状です。これを法律改正や条例改正でやろうとすると、ものすごく重い。用途地域による線引きと合わせて、住民や事業主、地権者が自主的に取り組みを行う「エリアマネジメント」的な立て付けも必要だと思います。画一的な規制ではなく、より柔軟なマネジメントという視点です。法律ではなくて、地元との協定だったり、ソフトな法規制に持って行くという。そのあたりを押し進めていかないと、法規制に街の成長が追いつかなくなってしまうと思います。街はどんどん進化していきます。法律で縛りすぎ、あらかじめ枠を設定してしまうと、街の進化を制限してしまいます。

採算抜きで、面白い人を引き寄せる「文化装置」を

_ここから少し話を変えて、齋藤先生のプライベートをうかがいます。もともとのご出身はどちらですか?

出身は東京の東側、江東区です。学生時代は渋谷がとても遠いイメージで、そこに行って遊ぶという経験はほとんどありませんでした。渋谷の音楽を、江東区で聴いていたという感じで(笑)。高校卒業したあと、2年ぐらいフリーター、アルバイトをしながら、プロを目指してバンド活動をしていました。

_プロミュージシャンを目指していらっしゃったのですね。バンド時代は何を担当されていたのですか。

ギター、ベース、ドラム、アルトサックス、何でもやっていたんです。ジャンルも色々で。なので風営法改正で、偉そうに「インバウンドだ」「ナイトタイムエコノミーだ」って言っているけど、出自がそんなところなので、現場に近い感覚を持ち続けられていますし、それが一番重要だと思います。他方で、音楽の現場を離れて弁護士になったことで、逆に音楽へのコミットの仕方がいろいろと増えました。たぶん僕が音楽をずっとやっていたら、きっと音楽との関わり方がもっと限定されたものだったと思う。法改正に弁護士としてかかわることができたし、改正後は、音楽を活用した新しい産業創出にかかわることができています。そこでは、音楽業界の視点から離れ、例えば、街づくりの観点からの音楽の可能性、観光資源としての音楽の可能性など、別の角度から音楽の新しい価値を見つけ、様々な産業との接点を見つけていけるよう意識しています。

_もともと渋谷とは縁遠かったとのことですが、でも今は渋谷にお住まいですよね?

弁護士になった当初住んでいた新宿から、4年前に渋谷に引っ越してきました。渋谷の端、新宿御苑と明治神宮と外苑との間に挟まれ、緑が豊かな千駄ヶ谷エリアです。近所の神宮前二丁目に遊びに行くことが多いのですが、都心のエアポケットのような場所です。どこの駅からも遠いのですが、小さいけれど個性的な飲食店やギャラリー、ショップが多くあり、独特の磁場に引き寄せられてくる、面白い人たちと多く出会えます。新宿に住んでいるときからよく遊びに来ていましたが、なかなか物件が出なく、見つけた瞬間に引っ越してきました。

_いま渋谷駅周辺では再開発が進んでいますが、渋谷区の住民目線で見た時に、新しく生まれ変わる駅や施設に何か期待していることはありますか?

箱(建物)の中にいろいろと入れてしまうと、機能性は高まると思うんですけど、街として箱の外と中に分かれてしまい、街の個性や雰囲気が損なわれがちです。なので、箱の中に何を入れるのかという点で、ソフトやコンテンツ面が重要だと思っていますし、そこに一番期待をしています。例えば、新丸ビル7階に「丸の内ハウス」というフードコートがあり、毎月、そこで僕と何人かでDJをさせてもらっています。いわゆるレストランフロアなのですが、商業施設にありがちな、誰でも知っているお店が区画ごとに賃料で貸されているものではなく、お店ごとの壁はなく、開放的な雰囲気を作り、夜景がきれいなテラスにドリンクを持ち出せます。中心の共有スペースには巨大なミラーボールとともに、DJブースを設け、DJを入れて音楽による空間演出をしています。と言っても、ナイトクラブとはまた違う雰囲気で、丸の内界隈のビジネスマンやOL、官公庁の人も、より気軽に音楽を楽しめる空間になっています。DJをしていると、いろいろな人たちを紹介されるのですが、そういう場なので遠慮せずに話せるのもいい。後で聞いたら、実は官公庁のすごく偉い人だったみたいな(笑)。

_渋谷にもナイトカルチャーを通じ、人と人が交流できる場が生まれるといいですね。

渋谷には既に多くのクラブがあり、豊かなナイトカルチャーもあります。それは丸の内エリアとは大きく異なる点なので、重要な資源として、まずはそんな場を育てていくべきだと思います。また新しくできる商業施設のような場にも、新しい場が生まれるべきだと思いますが、あまり商業的になってもクラブのアイデンティティを潰してしまう。先ほど、お話したクラブカルチャーの本質部分に、いかに光を当てるかが重要だと思います。その意味では、例えば、代官山の蔦屋書店も参考になるかもしれません。アナログレコードやこだわりの洋書がたくさん置かれていますが、その販売益で利益を生もう、なんていう発想はないと思います。豊かで文化的なライフスタイルを提案して、空間や街の魅力を高めて発信し、飲食やショッピングという体験に多くの付加価値をつけていく。同様にDJが選曲する音楽は、場の魅力を高め、食事の時間をより豊かなものにすることができますし、そこに価値を見出すお客さんを多く呼ぶよせることができると思います。渋谷には床数を何床設けて、それで割る幾つで賃料幾らみたいな商業施設ではない、面白い人たちを引き寄せるような魅力ある場所をつくって欲しいなと思いますね。

_今後の齋藤弁護士の活動の目標や夢はありますか?

いま、僕よりも下の若い弁護士は、仕事も少なく、労働環境も悪化しています。その要因はロースクールが出来て、一気に弁護士の数が増えたこともあるのですが、その結果、志しのある優秀な若者にとって魅力的な職業ではなくなっているようにも感じます。僕が考える今の課題としては、弁護士の新しい役割や仕事をどう創造していくのかということです。例えば、新しい産業創出のための法規制緩和や制度設計は、これまで弁護士が担うことはほとんどなかったと思うのですが、法律知識や交渉スキルなど、完全に弁護士が力を発揮できる領域です。規制緩和をして新しいマーケットの素地をつくり、そこでいろいろな事業者と一緒に新しい産業を興していく。風営法改正とそれに引き続く産業構築という点で、今まさに実践しています。A.Tカーニーの梅澤高明さん、カフェカンパニーの楠本修二郎さん、ロフトワークの林千晶さん、タイムアウト東京の伏谷博之さんなどと一緒に、「NeXTOKYO」という東京を世界一魅力的なグローバル都市にするプロジェクトをしており、風営法以外でもいくつか仕込んでいるところです。かなり長いスパンでの活動になりますが、やりがいはあります。

_弁護士業界全体のことも考えているのですね。

大きく弁護士業界全体のことを考え、チャレンジングな姿勢を失いたくありませんが、そのためには、目の前の仕事もこなし、かつ事務所の経営もしなければなりません。その意味では僕は本当にクライアント企業に恵まれていると思いますし、感謝の気持ちとともに、誠実に仕事をこなしていこうと常に意識しています。風営法改正の活動ばかりが注目され、通常の弁護士業務をしていないと思われたり、ときに弁護士であることを忘れられたりすらしますが(笑)、実際はクライアント企業の案件対応を日々行っています。独立後は弁護士一人で事務所経営をしていたのですが、今年からもう2名弁護士が加わり、パラリーガルと呼ばれる専門的スキルを持つスタッフも2名います。対応できる仕事量や仕事の幅も増えたので、新規のクライアントとの仕事も広げていきたい。そんな感じで地に足をつけた上で、弁護士業界全体のことも考え、進んだこともしたいと思っています。どの仕事でもそうだと思いますが、弁護士の役割も時代に合わせてアップデートしていかなきゃいけない。これからの時代は弁護士の定義自体も流動的になっていき、活動の幅も広がっていくと思います。

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