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KEY PERSON キーパーソンが語る渋谷の未来

渋谷を中心に活躍する【キーパーソン】のロングインタビュー。彼らの言葉を通じて「渋谷の魅力」を発信します。

誰もがチャレンジし、失敗を繰り返して その失敗を共有し合える街になってほしい

ビデオジャーナリスト、BarTube経営、大学講師など多彩な顔を持つ神田敏晶さん。2006年に世界初の投稿用動画スタジオを併設した渋谷宇田川町のBarTubeは、ネットとリアルを融合する空間として、バーの多い渋谷の中でも異彩を放っています。ジャーナリストとして、IT企業家として、また飲食店経営者として、渋谷に対する思いを存分に語っていただきました。

バー空間を確保することがオフィスの絶対条件だったんです(笑)

--渋谷との出会いを教えてください。

よく訪れるようになったのは大学を卒業してからですね。関西から東京に引っ越してきて。テレビで見た景色があちこちにあって「ここがNHKかぁ」なんて、いちいち感動していましたよ。とくにスクランブル交差点は何度訪れても「都会だなぁ」と感心しましたね(笑)。渋谷にオフィスを構えようと思ったのは??なんでだろう(笑)。もともと三軒茶屋に住んでいたという理由もありましたし、交通の便が良いから人に会いに行くのも、人に来てもらうのも楽なことも大きいですね。電車でもクルマでも来られますし、シンボリックな場所が多いから待ち合わせにも便利。今はケータイがあるから「とりあえず渋谷に来てよ」と言えば、何とかなっちゃいますしね。そうした意味では、渋谷は「話が早い街」とも言えますね(笑)。

--「BarTube」は、どのような経緯で開店したのでしょうか。

自炊したり、バーのようにお酒を飲めるオフィスが好きなんですね。だから、これまでのオフィスには大体、バースペースを作っていました。最初、渋谷でもバースペースを確保できる空き事務所を探していたんですけど、なかなか良い物件が見つからない。あるとき、知り合いのバーで飲んでいたら、「それならバーの空き店舗を探せばいいのでは」と言われました。探してみたら、賃料が事務所よりも安いことに気付いたんです。それで良い物件があったので、昼間はそこで仕事をして、21時から0時まではバーを営業することにしました(笑)。営業時間は短いのですが、最もお客さんが訪れる時間帯ですから、売り上げはそこそこ(笑)。以前は21時を過ぎても、お客さんが飲んでいる横で原稿を書いたりしていましたよ。空間的にも、最近はすっかりペーパーレスでほとんど紙の資料を扱わないので、こうしたスタイルも可能なんでしょうね。さすがに大量の資料を広げながら、この場所で仕事をするのはきつい。新聞の切り抜きなどもブログやミクシィで整理していますし、今はネットワークさえあればどこでも仕事ができますからね。ただ、ネットワークが止まったときは、ちょっと困る。実は今朝も回線の関係でグーグルのスケジュールが出て来なくて、しばらく何をして良いのか分からなくなりました(笑)。あんまり頼り過ぎるのも怖いなぁと。

--ネットの世界で仕事をされてきた神田さんが、リアルな店舗を持つのは、どのような気分でしょうか。

これからはネットとリアルの融合がテーマになると思うんですね。Web1.0は「見るウェブ」、Web2.0は「使うウェブ」、そしてこれから訪れるWeb3.0は「察してくれるウェブ」と言い表せると思います。実は、僕が今月20日に出す『ウェブ3.0型社会 〜リアルとネット、歩み寄る時代〜』という本のタイトルそのままなのですが(笑)・・・これからはネットがリアルに歩み寄って、自分のことを「察してくれる」方向に進化していくと思います。例えば、「渋谷のレストラン」と検索したときに、単に情報が羅列されるのではなく、登録したパーソナル情報に基づいて、「○○さんを誘うのだったら、予算が6,000円くらいのこんなお店はどうですか」なんて教えてくれたりする。さらに、「あなたは△△カードと□□カードの両方を持っていますが、ここでは△△カードを出した方が安いですよ」「今ならこの雑誌を持っていけば、いくらお得になりますよ」などと、向こうから提案してくれたら、ネットはもっと使いやすくなると思うんですね。そうした意味で、僕にとって、ネットの世界とリアルな店舗は決してかけ離れたものではなく、いかに面白い形で融合できるかを試す空間になっています。ネットとリアルが融合したおもしろい場所には、中野ブロードウェイがあります。あのビルには個性的な店が集まっていますが、主にネットオークションの配送作業をやっているお店があるんですよね。それで、お客さんが来たら、お茶を飲んで長話をしたりしている(笑)。

オトナがちょっと弾けて学べる街になれば、渋谷はもっと楽しくなる

--今後、「BarTube」は、どういう方向性に進んでいくお考えでしょうか。

アイデアがたくさんあって、店舗を増やすことも検討しています。今でも曜日によっては音楽イベントやカルチャースクールっぽく「ストレッチ講座」などを開いたりしています。あと、自分が音楽をやっていることもあって、いつかライブの聴けるお店も作りたいですね。最近の熟年層はすごく元気があるからバンドを募集したりして・・・良い条件の店舗さえ見つかれば、すぐにでも始めたいですね。たしかに僕の本業はネット関連ですが、もともと「体験」を通して何かを学ぶことが大事だと思っています。実際に体験することが大事で僕もいろいろと無茶をやっていますよ。過去にSegway(二輪の電動自動車)を公道で走らせて問題になったことがありますが、あれも問い合わせたところ法的にはグレーゾーンだったから試してみたという理由があったのです。ベンチャーにとってグレーゾーンは試す価値ありだと思いますし、体験したからこそ話せることってあると思うのです。だから、僕が講師を務めている学校の学生には「ちょっとくらい無茶をしてもいいから色々と体験しろ」と、いつも話しています。最近の若い人を見ていると、やはりネットで調べて分かったつもりになっているケースが多い。ネットでチェックした観光地に行って記念写真を撮り、買い物をして終わりという旅では分からないことが多いんですよ。そうした話を聞くと「興味があるなら無理をしてでも時間を作って1ヶ月でも住んでみろ」と話しています。大体、今やネットで世界中のモノが買えますから、旅行先で買い物をするという行為も、以前ほど意味を持たなくなっていますしね。

--渋谷のなかで、よく訪れる場所はどこでしょうか。

実は、東急プラザの地下にある「渋谷市場」をよく利用しています。料理に凝っているんですよ。渋谷市場は意外と知られていないのですが、僕も最初、友人から聞いて訪れたときには「渋谷にこんな場所があるんだ」と驚きました。肉なんか、ものすごく安いのに美味しいんですよ。魚屋も築地にいるようなガラガラ声のオジサンが「これは煮たら旨いよ」なんて教えてくれる。駅前にありながら親近感を抱ける場所。こうした場所を「穴場」って言うんでしょうね。そのほかに好きな場所はミニシアターですね。余りにも頻繁に行くので、映画監督になろうかとも思っています(笑)。

--渋谷の課題を挙げていただけますか。

そうですねぇ、ジェネレーション間のギャップが大きいことでしょうか。渋谷は若者が多いからといって六本木に流れたりする大人もいますが、もったいないと思います。たしかに、外見だけ見たら「すごいカッコしているなぁ」という若い人も少なくありませんが、中身は僕らと大して変わらなかったりする。ファストフード店で「最近、何が流行っているの?」と唐突に話しかけても、「えっとですねー・・・」なんて普通に話してくれますからね。だから、何か共通のテーマで世代が交流できるサロンのような場所があったらいいなと思いますね。ホントに一例ですが、「いじめられた経験のある人」が集まれる場所があれば、学生だけじゃなく、職場での体験を話してくれる人もいるかもしれない。一つのテーマに対して、さまざまな世代や環境の人が話し合えば、きっと良いアイデアが生まれるはずですよね。そうした場所が渋谷にあったら面白いな、と思いますね。

--今後、渋谷には、どのような街であってほしいでしょうか。

失敗を許してくれる街であってほしいですね。誰もが経験して、失敗して、その失敗を共有し合える街。そういう意味では、ベンチャーを立ち上げたいという若者でも気軽にチャレンジできる街であるといいですね。成功して会社が大きくなったら、他の街に出て雇用を創出してもいいと思います。成熟したものばかりが集まっている必要はありませんからね。個人的な意見ですが、渋谷には実験場がたくさんあってほしい。せっかくIT企業が集積しているのだから、たとえば、店員がロボットだけのカフェとか、コンピュータが足のサイズを測定して自動的にミラノの職人に注文してくれる靴屋とか、ネットワークを介してマサチューセッツ工科大学の医師が診察してくれる病院とか(笑)。オトナでもちょっと弾けて学べる街だったら楽しいでしょうね。「渋谷マーケティングキャンパス」と呼ばれるような街になればいい。そのためにも「箱形のインキュベーション」ではなく、渋谷に集う多くの世代の人々の人的なネットワークを大事にしてほしいと思いますね。きっとたくさんの失敗も生まれるでしょうが、それを共有するんですよ。そうしたら次の人は失敗しなくても済む。なんだったら、ウチの店でお互いに失敗を自慢し合う「失敗ナイト」なんてイベントを開催してもいいんですけどね(笑)。

■プロフィール
神田敏晶さん
神戸市生まれ。ビデオジャーナリスト。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の企画編集とDTPに携わる。その後、CD-ROMの制作・販売などを経て、1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。2002年4月1日より日本で法人化。ビデオカメラ1台を携えて、世界中のIT企業や展示会を取材する。現在、impress.TVキャスター、デジタルハリウッド特別講師、関西大学総合情報学部講師、宣伝会議「編集会議」講師、MXテレビ「BlogTV」キャスターなども務める。飲食業界では、世界で初めての「動画共有」をテーマにした「BarTube」を渋谷で経営。「Segwayのイベントレンタルおよび並行輸入販売」も行う。著書に『ウェブ3.0型社会 〜リアルとネット、歩み寄る時代〜』(大和書房)、『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』(いずれもソフトバンク新書)がある。

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