渋谷文化プロジェクト

渋谷をもっと楽しく!働く人、学ぶ人、遊ぶ人のための情報サイト

映画「バケモノの子」の楽しみ方−鑑賞後は「ぶらり聖地巡礼」の旅へ

「時をかける少女」(2006)、「サマーウォーズ」(2009)、「おおかみこどもの雨と雪」(2012)の細田守監督3年ぶりの最新作「バケモノの子」がいよいよ7月11日(土)より、渋谷・TOHOシネマズほか全国でロードショーが始まる。

3年周期で最新作を発表し続けている細田監督であるが、毎回、実在する「まち」を舞台にストーリー展開を行う。「時をかける少女」では西武新宿線・中井駅周辺、「サマーウォーズ」では長野県上田市、「おおかみこども」では監督自身の出身地である富山県など、実景に沿ってディテールまで丁寧に落とし込んだ背景は、観る者にアニメーションという枠を超えた感情移入を起こさせる。

最新作となる今回の舞台は、言わずもがな「渋谷」だ。

(C)2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

渋谷スクランブル交差点の中央で、主人公・九太(きゅうた)とヒロインの女子高生・楓(かえで)が2人佇むメインビジュアルは、とても印象的である。海外からもきっと注目を集めることだろう。今までの過去作品では、田舎ののどかな風景の中でじっくりと物語を作り込んできたが、なぜ、最新作では一転して大都会・渋谷をロケーションに選んだのだろうか? 細田監督は「僕らが慣れ親しんだ街の中にこそ、ワクワクするものが潜んでいるのではないかと思う。都市空間としての渋谷を舞台にすることは挑戦だったが、映画を作っていく中で、実に冒険に適した場所だったと実感した」と、その理由を明らかにしている。

「渋谷区から一歩も出ない」という今回のストーリーは、街の中を縦横無尽に走りまわる冒険活劇。この世界には人間界「渋谷」とは別に、もう1つバケモノの世界「渋天街(じゅうてんがい)」がある。人間とバケモノは、決して交わるはずのないパラレルワールドを生きているが、ある日、ひとりぼっちの少年がバケモノの世界に迷い込んでしまう。そこで少年は、渋天街で一二を争う強さを誇るバケモノ・熊徹(くまてつ)と出会い、彼の弟子になる。九太(きゅうた)と名付けられた少年は、粗暴で品格の欠片もない熊徹との共同生活をしながら、想像を超えた冒険を経験して成長していく――。

細田監督の作品づくりの根底には、「親子愛とは何か?」「家族愛とは何か?」「人間愛とは何か?」という確かなメッセージが感じられる。多様に変化する社会環境の中で、人種や国籍、性、年齢はもちろん、家族観ですら変わり始めている。監督は「サマーウォーズ」で家族の絆で大きな困難に立ち向かう姿を、「おおかみこども」で母と子をテーマに親子の成長物語を、そして最新作では、血の繋がっていない”バケモノの師匠(=父)と弟子(=子)”という関係性を見事に描く。こうした背景には、監督自身が3年前の「おおかみこども」公開後、息子さんが生まれたことも影響を与えているのだろう。「親子とは何か?」「父子とは何か?」――そんな監督自身の子育てにおける迷いや成長などが、熊徹と九太との師弟関係の中に垣間見える気がする。

では、人間界とパラレルに存在する「バケモノ界」とは一体何なのか? これは作品を観る人ごとに異なるかもしれないが、子どもが大人になるときに必ず通る「成長過程(修行期)=バケモノ界」と捉えることも出来るだろう。家族以外の人間との関わりの中で、子どもは親離れをして、そして大人へとなっていく。つまり、バケモノ界とは大人になって「あのときの自分」を改めて振り返ったときに、「あれが(自分にとっての)バケモノ界だったのか」と後から気付くものなのかもしれない。さまざまな価値観やカルチャーを形成する渋谷という土地は、多様性と寛容性を育み、まさにいろいろな人びとと出会える絶好の「修行場=渋天街」といえるのではないか。勝手な解釈ではあるが、そんな見方もできるだろう。

さて、同作品の楽しみ方として、ストーリー以外にも注目してほしい。最新作で取り上げられているシーンは、スクランブル交差点やセンター街などの渋谷駅周辺だけに留まらず、「幡ヶ谷商店街」「氷川神社」「渋谷区役所」「代々木第一体育館」「岸記念体育館」など、皆さんがよく知るランドマークから小さな路地まで、渋谷の街を広く網羅する。
「センター街」をロケーションとするシーン。 (C)2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

そういった意味では、渋谷の映画館で作品を観ることをおすすめしたい。「九太と楓が待ち合わせる図書館はどこ?」「人間界とバケモノ界を繋ぐ狭い路地はどこ?」など、映画を鑑賞した後に「聖地巡礼(ロケーション探し)」に渋谷の街へ繰り出す楽しみが増える。アニメーションという虚構の世界と感じながらも、リアル(実景)と結びつくことにより、虚構と現実世界が交錯する不思議な世界に深く入り込むことが出来るはずだ。映画鑑賞後の余韻を感じながら、ぜひ街を彷徨ってほしい。

「ロケーション探し」のほか、もう一つ、作品を観ながら注目して欲しい点がある。それは少年・九太がバケモノの世界である「渋天街」で8年間を過ごし、久々に「人間界」に戻ってきたときの街の変化だ。「時間の経過」は九太を少年から逞しい青年に成長させるだけではなく、看板広告や街行く人びとの姿にも表れている。物語の本筋とはズレているが、そんな細部にも目を凝らして作品を観てもらえたら、より楽しめるだろう。

師弟愛、父子愛から痛快なアクションシーン、そして恋愛に至るまで、子どもからお年寄りまでが一緒に楽しめる”一大エンターテイメント”。ぜひ、作品の舞台である「渋谷」で観て、その作品の世界観にどっぷりと浸ってみてほしい。

映画「バケモノの子」
〇公開:2015年7月11日
〇劇場:TOHOシネマズ 渋谷ほか、全国東宝系にてロードショー
〇監督・脚本・原作:細田守
〇声の出演:役所広司、※宮崎あおい、染谷将太、広瀬すず ほか
※「崎」は正しくは「大」→「立」
〇公式:http://www.bakemono-no-ko.jp 

<関連記事>
映画「バケモノの子」プロデューサー 齋藤優一郎さんインタビュー(2015.07.10)
成長と変化を恐れない「渋谷のバイタリティ」が、映画『バケモノの子』のダイナミズムと一致する。

編集部・フジイタカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。

オススメ記事