KEY PERSON

地域通貨「アースデイマネー」を通して渋谷の街に「循環型」の社会を築きたい渋谷の街でユニークな地域通貨「アースデイマネー」に取り組むNPO法人アースデイマネー・アソシエーション。その活動は地域通貨に留まらず、朝市の運営や、天ぷら油でバスを走らせる取り組みなど、渋谷を拠点に次々に新たなプロジェクトを立ち上げている。代表の嵯峨生馬さんに、活動内容や、渋谷の街への要望を聞いた。 渋谷で実施したことが、他地域の人たちに“勇気”を与えた。--地域通貨のアースデイマネーを始めた経緯を教えてください。
シンクタンクで新事業の創造に携わっていた頃に地域通貨について調べたことがありました。そのときに地域通貨の創始者であるカナダのマイケル・リントンさんが発行するメーリングリストに登録したんです。しばらくの間、地域通貨の調査は中断していたのですが、あるとき、リントンさんと付き合いのある関係者から、メーリングリストに登録している日本人ということで、連絡が入りました。リントンさんが来日するので地域通貨に興味があるなら会ってみないか、という誘いでした。面白そうなので会ってみると、リントンさんは日本に地域通貨を導入することに非常に積極的で、その日のうちにプロジェクトチームが発足しました(笑)。それがアースデイマネーの発端で、約10カ月後の2001年10月に「アースデイマネー」の発行を開始し、2002年6月にNPO法人を設立しました。

--その地域として渋谷を選んだ理由は何だったのでしょうか。 まず、活動の活性化のためにはNPOやNGOの多い地域が適していると思い、東急線の沿線に候補を絞りました。自由が丘や二子玉川も考えましたが、どこに導入すれば面白く、なおかつ流行るかを話し合ったところ、大方の意見が渋谷でまとまったのです。面白いことをやってみようという人間が集まったら、自然に、その舞台が渋谷になったといえますね。その意味では渋谷は「試される街」と言えるかもしれません。そうした考えが間違いでなかったことは、さまざまな形で実感できました。渋谷発の地域通貨としてメディアには大々的に取り上げられましたし、そもそも、このプロジェクトには若者を巻き込みたいと考えていたんですね。その点、提携店舗に若者好みの店をそろえられる渋谷は、地域通貨を「おしゃれ」なイメージに結び付けるのにはぴったりの街でした。また実際に試してみると、渋谷にはいろんな人がいて、地域通貨のことを全く受け付けない人もいれば、すごく面白がってくれる人もいます。まとまりがないというか、多様性があるというか・・・。でも、誰かに言われたからとか、義理で参加するとかいうことがないので、アースデイマネーのことをそれなりにきちんと理解してくれるお店ばかりが集まるようになりました。さらに「渋谷で実施する」ということは、他地域で同様の取り組みを志す人に対し、思っていた以上に「勇気」を与えられることも分かりました。実際に山口市では、アースデイマネーの取り組みを参考にして「フシノ」という地域通貨を発行し、地域に根付かせることに成功しています。アースデイマネーとは提携しているため、「椹野(ふしの)川でカンカン拾って、渋谷でコーヒーを飲もう!」と呼びかけて活動を広めているようです(笑)。

--渋谷に導入したアースデイマネーの特徴を教えてください。
地域通貨は、個人を単位とした助け合いの媒介に用いられるのが一般的でした。たとえば、隣近所の住民同士で、パソコンを教えたり、子どもの世話をしたり、高齢者の話し相手になったときに、お礼の気持ちとして受け渡されるという利用法です。しかし、都市部の渋谷では、そうした利用法は不向きだと考えました。そこでリントンさんのモデルを参考に、個人、NPO、そして店舗という三者を繋ぐ手法として地域通貨を取り入れたのです。これは、NPOに寄付やボランティア活動を提供した個人に地域通貨が渡され、その地域通貨は提携店舗で使用できるとともに、店舗にとっても集客のメリットがあるというモデルです。今後も、渋谷の街で三者を緩やかに繋ぐ「プラットフォーム」の役割を続けられればと思っています。

原宿のカフェ「WIRED CAFE 360°」内にあるアースデイマネーの自動発行機「アースデイGACHA」。1回200円で、出てきたカプセルの中に地域通貨「200r」分と「コントリビューターズシート(投票用紙)」が入っており、応援したいプロジェクト名などを記入して回収ボックスに投函すると、うち100円が寄付金として各プロジェクトに届けられる

ビンテージのような独特の魅力を放っている。それが渋谷という街。--地域通貨のほかにも、「朝市」や「天ぷら油リサイクル大作戦」など、渋谷で新たなプロジェクトを次々に展開していますね。
「朝市」の正式名称は、「アースデイマーケット」。これはパリやロンドンなどの大都市には朝市があるのに、どうして東京にはないのかという発想から始まり、ようやく第一回の開催にこぎつけました。出店者の条件はアースデイマネーによる一定額の割引を行うこと。出店者が手にしたアースデイマネーは、今後、若者が農家の手伝いに訪れたり、家庭の生ゴミを肥料として提供したりする際に、その対価として使ってもらおうと構想しています。そのように、朝市で完結せずに、アースデイマネーを介在させることで、一種の「循環型社会」として機能させたいと思います。一方、「天ぷら油リサイクル大作戦」は、使用済みの天ぷら油を精製して自家発電や車の燃料など様々な用途に用いるプロジェクト。4月22日〜23日の「アースデイ東京2006」で実際に渋谷の街にバスを巡回させる予定です。

--渋谷の好きなところ、嫌いなところを挙げるとしたら?
渋谷の街には細い路地がクネクネと続き、まるで猫になったような気分で歩けますよね。それが楽しくて学生の頃から遊びに来ていました。逆に、新宿や池袋は大規模なビルが多く、街自体がのっぺりとしている印象を受けます。人の脳はヒダが多いほど多くの感情が生まれるという話を聞いたことがありますが、街も同じことだと思うんです。渋谷のようにヒダの多い街の方が文化を生み出しやすいのではないでしょうか。たとえば、渋谷で映画館を探せば、大小さまざまなものが出てきますよね。そういう面白さが渋谷の大きな特徴だと思います。あえて改善してほしいことを述べれば、もう少し歩きやすい街になればいいかな。ちょっと車が多過ぎる気がしますね。

--渋谷に足りないものは何でしょうか。 以前、外国のある島でガラス細工の工房を目にしました。その工房は変わっていて、島内で回収したビンを加工して人形や食器を作っていたのですね。すごく面白いアイデアだと思いましたし、一種の循環型社会として機能しているし、温かみのある製品もとても良かった。渋谷の街には、そうした工房も似合うと思うんです。渋谷には汚れや傷がありながらも独特の魅力を放つ「ビンテージ」のようなおしゃれな雰囲気がある。それは表参道のような気取った感じのおしゃれとは、全くタイプが異なります。同様のガラス工房があれば、きっと流行るでしょうし、そうしたリアルなモノづくりの現場がどんどん増えれば、もっと面白い街になるんじゃないかと思いますね。
アースデイ東京2006 期間:2006年4月22日(土)〜23日(日)
場所:代々木公園
1970年、ウィスコンシン州選出のG・ネルソン上院議員が、4月22日を「地球の日(アースデイ)」であると宣言。それをきっかけに、世界中で、地球への関心を表現するユニークなイベントが開催されるようになった。「天ぷら油リサイクル大作戦」も2006年の東京会場に参加する企画の一つ。回収した使用済み・消費期限切れの天ぷら油を精製した燃料(VDF)を使って、渋谷を回遊するバスを走らせたり、ステージの自家発電を行う。会場では天ぷら油の回収を実施し、協力者にはアースデイマネーがプレゼントされる。

アースデイマーケット 日時:第1回 2006年4月29日(祝) 10:00〜16:00(第2回以降は毎月第四日曜)
場所:代々木公園(並木道)
東京や千葉、埼玉、茨城、山梨などの農家による野菜を中心とした直売市。約30店舗が出店する予定(第2回以降は50〜60店舗)。購入価格の1割以上にアースデイマネーの使用が可能。今後は、農村を訪れて農作業を手伝うツアーをはじめ、さまざまな形態の都市・農村交流が検討されている。

■プロフィール
嵯峨生馬さん
1974年、横浜生まれ。東京大学教養学部卒。1998年、日本総研に入社し、シンクタンクの事業企画部で新事業の創造に関わる。2001年には地域通貨フォーラムの運営を進める一方で、プロジェクトチームの中心人物として渋谷に「アースデイマネー」を導入。翌年にNPO法人アースデイマネー・アソシエーションを設立し、その代表理事となった。2006年3月に日本総研を退社し、NPO法人アースデイマネー・アソシエーションの活動に注力する。

NPO法人アースデイマネー・アソシエーション 2002年6月設立。活動の中心は、地域通貨であるアースデイマネーの発行。これは地域環境や社会に貢献するプロジェクトに対して寄付やボランティアを提供した人に渡される独自の通貨で、渋谷を中心とした提携店舗で利用できる。そのほか、代々木公園で開催される朝市「アースデイマーケット」、使用済みの天ぷら油でバスを走らせる「天ぷら油リサイクル大作戦」、古本や中古CDなどでアフガニスタン・パキスタンの教育を支援する「BOOK MAGIC」など、幅広い活動を展開する。

撮影協力:WIRED CAFE 360°
東京都渋谷区神宮前4-32-16 KDDI DESIGNING STUDIO 5階
TEL 03-5413-2630


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