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渋谷でエドワード・ゴーリー展覧会 「不気味さ」と「ユーモラス」が共存する独特な世界

(上画像)エドワード・ゴーリー『うろんな客』 原画 1957年 ペン、インク、紙 ©2022 The Edward Gorey Charitable Trust

『うろんな客』『不幸な子供』などの作品で知られるアメリカの絵本作家エドワード・ゴーリーの展覧会「エドワード・ゴーリーを巡る旅」が現在、渋谷区立松濤美術館で開催されている。

エドワード・ゴーリーは1925年、米・シカゴで生まれる。17歳の時にシカゴ・アート・インスティチュートで半年間だけ美術を学んだ後、アメリカ陸軍に入隊。除隊後、ハーバード大学で仏文学を専攻。1953年、ニューヨークの出版社ダブルデイ社に就職しブックデザインを担当する。同年、デビュー作品となる『弦のないハープ またはイアブラス氏小説を書く。』を発表し、絵本作家としてのキャリアをスタート。また、1957年に刊行された『うろんな客』は代表作の一つとして知られる。いくつかの出版社で勤務した後、1962年には自身の出版社であるファントッド・プレスを立ち上げ、韻を踏む詩的な文章と緻密なイラストレーションを組み合わせた独特の世界観を持つ絵本を数多く手がける。また、文学やバレエ、映画などにも造詣が深く、挿絵や演劇のポスター、舞台美術等も手掛けるなど、多方面で多彩な才能を発揮。2000年4月に亡くなるが、同年秋に柴田元幸さんの翻訳による初の単行本絵本が出版されたのをきっかけに、日本でも若い世代を中心に一躍ブームが起こる。死後20数年を経た今日、「不気味さ」「怖さ」に「ユーモラス」「かわいさ」が共存する独特な世界観を持つゴーリーの作品は、世代を超えて世界中から熱狂的な支持を集めている。

今回の展覧会は、マサチューセッツ州ケープコッドにある記念館「ゴーリーハウス」で定期的に開催されている企画展の中から、「子供」「不思議な生き物」「舞台芸術」などのテーマを軸に約250点の作品で構成したもの。ボストン近郊の大西洋に突き出た半島ケープコッドにあるゴーリーハウスは、19世紀に建てられた築約200年の古い邸。1986年以降、ゴーリーはニューヨークからここに移り住み、創作活動の場、終の棲家として過ごした。死後は生前時の雰囲気を保ちながら記念館として公開され、原画や資料による展覧会を定期的に開催している。

▲エドワード・ゴーリー『不幸な子供』 原画 1961年 ペン、インク、紙
©2022 The Edward Gorey Charitable Trust

同展では会場内を5つのテーマに分けて構成。「第I章 ゴーリーと子供」では、『不幸な子供』をはじめ、ゴーリー作品に多い幼児や子供が主人公の作品にフォーカス。作中、子供たちには次々に悲劇や試練が降りかかるが、安直なハッピーエンドを迎えるわけでも、勧善懲悪的などんでん返しが起こるわけでもない。良い子も悪い子も関係なく、あっけなく死、あるいはただの不幸で終わる。こうしたクールな視点は、平坦ではない家庭や世界のなかで生き抜き、成長してきたゴーリーの子供時代との関係も見え隠れし、同章ではゴーリー自身の幼少期の作品を含めて紹介する。

▲エドワード・ゴーリー『音叉』 原画 1990年 ペン、インク、紙 ©2022 The Edward Gorey Charitable Trust

「第II章 ゴーリーが描く不思議な生き物」は、ゴーリーが生み出したユーモラスで愛嬌がある「架空の生き物」を特集する。代表作である『うろんな客』ではある日突然、家に入り込み居座り続ける「黒い生き物」が登場する。『音叉』で少女が海の底で出会う巨大な海獣は、恐ろしいけれど、少女の話を親身に聞いてくれる。作中に登場する生き物たちは一見、不気味であるが、どこか人間臭く、愛嬌があり、作品をより魅力的にする存在といえる。同章では絵本の原画とともに、キャラクター設定のためのスケッチやドローイングなども展示する。

▲エドワード・ゴーリー『ドラキュラ・トイシアター』 表紙・原画 1979年頃 インク、紙
©2022 The Edward Gorey Charitable Trust

「第III章 ゴーリーと舞台芸術」は、ゴーリーと舞台美術やテレビ、映画などとの関りを紹介する。20代後半からニューヨークに移住すると、ニューヨーク・シティ・バレエの公演に通いつめ、バレエを主題にした絵本を生み出す。1970年代には、ブロードウェイ・ミュージカル劇『ドラキュラ』の総合デザインを担当し、演劇界の栄誉であるトニー賞の衣装デザイン賞を受賞。さらに1980年、テレビ番組『ミステリ!』のオープニング・アニメーションを制作するなど、絵本以外の作品にも注目する。

▲エドワード・ゴーリー『ジャンブリーズ』 原画 1968年 ペン、インク、紙
©2022 The Edward Gorey Charitable Trust

「第IV章 ゴーリーの本作り」は、箱入りの限定版を出版するなど、複雑な仕掛けやこだわりが詰まった本作りと、ゴーリーが影響を受けた古典名作を紹介する。作画は、お気に入りの「ヒギンズ」のインクに「ハント」の細いペン先を用い、タイトル等のロゴやテキストの文字も手描きで仕上げるなど、細部にわたり職人気質で緻密な仕事ぶりが垣間見られる、特に影響を受けたのは、イギリスの詩人で画家のエドワード・リア(1812-1888)。後年挿絵をつけたリア原作の『ジャンブリーズ』は代表作の一つとなっている。

最後の「第V章 ケープコッドのコミュニティと象」は、晩年にゴーリーが居を定めたケープゴッドの古い家「ゴーリーハウス」での作品づくりと暮らしに注目。終の棲家となったここでは、「象」をテーマにした不可思議で内面的な版画作品を作り続け、新境地として評価されている。ゴーリーを巡る旅の締め括りとなる晩年の版画作品と、多くの猫たち、多くの蔵書や美術品などモノにあふれていたゴーリーの暮らしを紹介する。

建築家・白井晟一氏によって設計された「松濤美術館」。「ホワイトキューブ」と呼ばれる白い壁に囲まれたニュートラルな展示空間ではなく、地下1階展示室は天井高があり静かで落ち着きある空間、2階展示室はどこか邸宅の一室を思わせるような雰囲気を持ち、ゴーリーハウスにもどこか通じるところがある。ゴーリーハウスへ旅した気分で鑑賞してみてはいかがだろうか。

会期中、学芸員によるギャラリートーク(4月23日、5月20日14時〜、無料)や、白井晟一氏設計の美術館建築ツアー(毎週金曜日18時〜、無料)などイベントも行っている。

会期は6月11日まで。

エドワード・ゴーリーを巡る旅
○会場:渋谷区立松濤美術館
○会期:2023年4月8日(土)〜6月11日(日)
○時間:10時〜18時(毎週金曜日は20時まで)
※入館は閉館時間の30分前まで。
○料金:一般1000円、大学生800円、高校生・60歳以上500円、小中学生100円
※毎週金曜日は渋谷区民無料
※土・日・祝日は小中学生無料
○休館:月曜日
○公式:https://shoto-museum.jp/

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