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時代の「当たり前」に挑戦する若者たち〜美術集団「ラファエル前派兄弟団」にフォーカスした美術展

2015年の日本では、沖縄県の翁長県知事が普天間基地移設問題を巡って国と戦う姿勢を示したり、渋谷では同性カップルに結婚に相当する関係を認めるパートナー証明が交付されたり、これまで大衆が当たり前に受け入れてきた政治や歴史やカルチャーに多様性や選択肢を示してくれる動きが数多く見られた。既存の価値観というのは、渦中にいるときには「当たり前」と身に染み付いてしまっているものだが、覆ってみるといつの時代にも通用する普遍的なことなんて実はそうは多くないことがわかる。時代は「当たり前」へのアンチテーゼの繰り返しで形作られてきたとも言えるだろう。また、そういった「当たり前」へ挑戦し、異議を唱えることのできる人々が魅力的に見えるのは、現状にとどまり得ない自然界の必然なのだろうか。今回は美術の世界から、「当たり前」に挑んだある若者たちの軌跡を紹介する。

ヴィクトリア女王が大英帝国に君臨した19世紀、既存の美術界のアカデミーにアンチテーゼを唱えた若者7人が結成した美術集団「ラファエル前派兄弟団」にフォーカスした美術展が12月22日、Bunkamuraザ・ミュージアムでスタートする。

当時の大英帝国は、産業革命を経て繁栄の絶頂にあった。多くの中産階級が生まれ、彼らの成金的な好みや趣味が、美術界の方向をも左右するようになっていたという。当時美術界のアカデミーが拠り所としたのは、ダビンチ・ミケランジェロに並ぶルネサンスの巨匠ラファエロ。ラファエル前派の7人は、そこに誇張や気取りを感じ、ラファエロ以前の絵画への回帰を唱えた。

メンバーは、ジョン・エヴァレット・ミレイ、ウィリアム・ホルマン・ハント、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティを中心にした画家たち。1848年に「ラファエル前派兄弟団」を結成して誠実な態度で真摯に主題に取り組み、緻密な自然描写を追求。そして道徳的含意をもつ文学的、宗教的、あるいは日常生活の場面を通じて民衆を強化できると信じ、作品が出来るだけ多くの民衆に届くように努めるなど、若者らしい理想の絵画を追求していった。

しかしながらこのグループは1853年にミレイがアカデミーの准会員になったのをきっかけに崩壊へ。同展では兄弟団による若々しい作品群のあとに、ラファエル前派に属した若者たちやその考え方が、その後たどった足取りを追いかける。
ローレンス・アルマ=タデマ 《お気に入りの詩人》 1888年 油彩・パネル (C)Courtesy National Museums Liverpool, Lady Lever Art Gallery

ローレンス・アルマ=タデマは1888年、主題を古代の世界に設定した風俗画「お気に入りの詩人」を発表。見るものはその写実的で細密な描写に、まるでその場に居合わせているかのような感覚を覚えたという。神格ではない裸婦像を、それまで認められていなかった公的な場に取り入れた点にも注目が集まった。
ウィリアム・ヘンリー・ハント 《卵のあるツグミの巣とプリムラの籠》1850-60年頃 水彩、グワッシュ・紙 

「卵のあるツグミの巣とプリムラの籠」は、鳥の巣や卵を描いた静物画で知られ、「鳥の巣のハント」とも呼ばれたウィリアム・ヘンリー・ハントの作品。植物の枯れ葉や地面など、茶色を基調にした少ない色幅を繊細な色使いで描き分けており、その深い観察からは自然の奥行きが伝わってくる。

会場では、ラファエル前派第二世代と呼ばれるグループや、前派が追い求めた古典主義的傾向の強い画家たちも紹介。ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスはラファエル前派の画家たちの没後の追悼展で感銘を受けたのをきっかけに、鑑賞者の想像力を掻き立てる神話や文学の物語を再現的に表現したという。
ジョン・エヴァレット・ミレイ 《いにしえの夢─浅瀬を渡るイサンブラス卿》 1856-57年 油彩・カンヴァス (C) Courtesy National Museums Liverpool, Lady Lever Art Gallery

出展作品は油彩水彩など65点で、ラファエル前派の傑作を有する美術館として世界的に知られるリバプール国立美術館(リバプール市内及び近郊の3美術館の総称)収蔵。まとめて紹介されるのは今回が日本初で、ジョン・エヴァレット・ミレイの「いにしえの夢─浅瀬を渡るイサンブラス卿」など、日本初公開作品も多数展示される予定。

会場には現在では名作として知られる作品が並ぶが、そういった作品群の根底を支えているのは、既存のあり方に従わなかった若者たちの強い信念。同展を通して、ある時代の美術界で若者たちが夢見た理想の軌跡を追体験してみては。

リバプール国立美術館所蔵 英国の夢 ラファエル前派展
〇開催:2015年12月22日(火)〜2016年3月6日(日)
    ※1/1(金・祝)・1/25(月)休館
〇時間:10:00 - 19:00(入館は18:30まで)
    毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
    ※1/2(土)を除く
〇会場:Bunkamuraザ・ミュージアム(渋谷区道玄坂2-24-1)
〇料金:一般当日1,500円など
〇公式:http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/15_raffaello/

編集部・横田

1980年生まれ、神奈川県在住。大学進学を期に上京して以来渋谷はカルチャーの聖地です。現在は渋谷文化プロジェクト編集部に所属しながら、介護士として働くニ足のわらじ生活です。

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