#シブラバ?渋谷で働く、遊ぶ、暮らす魅力を探る

KEYPERSON

成長と変化を恐れない「渋谷のバイタリティ」が、映画『バケモノの子』のダイナミズムと一致する。

映画プロデューサー齋藤優一郎さん

プロフィール

1976年、茨城県生まれ。アニメーション映画制作会社「スタジオ地図」プロデューサー兼代表取締役。米国留学後、99年マッドハウス入社。『時をかける少女』(06)、『サマーウォーズ』(09)のプロデューサーなどを務め、11年に同社を退社。同年4月、細田守監督と共に「スタジオ地図」を設立。
以後、細田守監督作品のプロデュースに専念し、『おおかみこどもの雨と雪』(12)を企画・制作。2015年7月11日より、細田監督とのタッグ4作目となる最新作『バケモノの子』の公開が控えている。

『時をかける少女』(2006)、『サマーウォーズ』(2009)、『おおかみこどもの雨と雪』(2012)で細田守監督とタッグを組むプロデューサーの齋藤優一郎さん。ヒットメーカーである二人が、3年ぶりに手がける最新作『バケモノの子』は、2006年から2015年夏までの「渋谷」を舞台とし、バケモノの弟子となったひとりぼっちの少年が、人間界とバケモノ界を往き来しながら成長を遂げていくストーリー。今回のインタビューでは、プロデューサーの齋藤さんを迎えて、「夏のアニメ映画」にチャレンジする想いから、最新作で伝えたい「新しい家族の在り方」まで、映画『バケモノの子』が持つ魅力を思う存分語ってもらった。さて、大都会・渋谷をロケ−ションとして選んだ理由とは―――。

心躍る、夏のアニメーション映画の王道に挑戦したいと思った

_細田守監督との4作目、最新作のストーリーを簡単にご説明していただけますか?

脈々と続く、夏のアニメーション映画の歴史の中には「夏に少年が冒険をして」「何か不思議なものや世界と出会って」「そして少年が大人になる」という王道が数多くあります。ただ近年、細田守監督作品も含めて、女性主人公ものは多くあったけれど、少年を主人公とした夏のアニメ映画というものは、もしかしたらあまりなかったのではないか。そうであれば今、少年を主人公とした夏のアニメ映画にチャレンジする意義があるのではないか。おそらく、皆さんの夏を彩った想い出のアニメ映画の中にも、そういったものが何本かあるのではないでしょうか。細田監督の世代で言えば『銀河鉄道999』や、きっと多くの観客の皆さんにとっては高畑勲監督や宮崎駿監督作品など。やっぱり心躍る、子どもと大人が一緒に楽しめるアニメ映画には子ども時代を豊かにする公共性がものすごくある。そういう作品を目指したいと細田監督は思ったんだと思います。そして、それを修行ものとして、疑似親子ものとして、スカッとしたアクション映画でやりたいと思った。

_修業映画であると。

熊徹との出会いで、九太の修行が始まる。
(c)2015 B.B.F.P

ある日、バケモノである熊徹(くまてつ)と出会った少年が、強さを求めて熊徹に弟子入りをします。修業を通した共同生活の中で少年は段々と成長し、2人の関係もいつしか本当に親子のような絆を得ていく。その中で、あるとき人間とバケモノの世界双方を危機に陥れる大事件が勃発してしまう。その危機というのは少年の成長過程で、誰もが通る大人へのプロセスがきっかけとなって起こる出来事。その危機に対し、少年はどのようにしてそれを乗り越えて、自身の人生を切り開いていくのか。その時、師匠であり、大人であり、そして本当の親子のような絆を得たバケモノは、その少年の成長と決断に対して何をしてあげられるのか。そういった物語だと思います。

_過去の『時をかける少女』から最新作まで3年周期でつくられていて、かつ毎回、夏に上映していますね。

そうですね。でも映画は本当に一本一本ですので、前作『おおかみこどもの雨と雪』を沢山の方々に観て頂けたことで、また映画を作らせてもらう機会を得ました。その中で、またこの夏に映画を公開させて頂ける事を心から感謝致しております。夏って本当に特別な季節で、何か成長を促される季節のようにも思うんですね。そして夏には「アニメ映画をみんなで観る」という脈々と続いてきた長い歴史がある。その文脈の中で、僕らも子どもと大人が一緒に楽しめる、ど真ん中でストレートな新しいチャレンジをしていきたい。映画を観終わった後に、一人でご飯を食べるにしても、友人や家族と一緒にご飯を食べるにしても、とっても美味しいご飯が食べられる。そういう映画を作りたい。細田監督の映画は公共の利益に適うべきものであるという映画哲学の一つでもあります。

_前作は富山で、その前の『サマーウォーズ』が長野県上田市で、過去作品は田舎を舞台にしていましたが、今回は一転して大都会・渋谷です。なぜ、渋谷を舞台に選んだのですか?

監督も何処かで話をしていましたが、大自然と同様に、都市の美しさを描くことにもチャレンジをしてみたかった。また渋谷という街の「すり鉢状」という地形がすごく面白く魅力的に感じた、というのも理由の一つであったかと思います。

_地形的な理由で?

そうですね。そのすり鉢には様々な多様性があって、文化や流行、また新しい価値観などを生み出していくバイタリティが、渋谷という街にはある。これは個人的な考えなのですが、今回の映画の大切なキーワードの一つとして「成長」というものがあると思います。そしてそれは「変化」とも言い換えられるのではないか。渋谷はこれまでも、そして今も尚、常に変化をいとわない、そんな街のようにも思えます。だからこそ、文化や新しい価値観などが生まれてくる。常に変化を恐れずに、成長という変化を肯定する街こそが渋谷であり、その変化のダイナミズムというのは、映画に通じるものがある。そんな風にも思えるのです。

(c)2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

子どもの成長に、大人や社会はどう向き合うべきなのか

_前作は親子、母子というかたちでしたけど、その流れで、今度は血のつながっていない師弟、父子という関係を描こうと考えたのですか?

そういったことではありませんでした。細田監督は、自分の家族で起こっている喜びや問題は、世界の家族の中でも起こっていると考えているんです。だからこそ、例えば、自分の家族の喜びは世界の家族の喜びでもあり、また自分の家族の問題を解決することが出来たら、世界の家族の問題をも解決することが出来るのかもしれない。そう言った身近な体験を通した視点で世界を見つめ、そして映画を作り、その映画の機能を使って、世界中の人達と喜びや問題意識を共有したい。これも細田監督の映画哲学の一つだと思うんですね。そういう観点から言えば、今回の映画のきっかけは、これは監督自身も言っている通り、監督にお子さんが生まれたことと、監督自身が父親になったということが一番の動機になっているのだと思います。前作『おおかみこどもの雨と雪』は、『サマーウォーズ』の制作途中に他界された監督のお母様に対する総括と、いつか自分も親になりたいという憧れから生まれた作品でした。『バケモノの子』は、我が子の成長を見つめる視線の中で、親って大人って何だろう。大人になるってどういうことなんだろう。大きく変容する社会の中で、これからを生きていく子ども達の励ましになるような、成長を祝福し、その未来を肯定するような映画を作りたい。また私たち大人や社会は、その子ども達の成長と未来に対して何をしてあげられるのか? 励ましと祝福感を持って、子ども達の成長を賛歌したい。そんなことを映画を作りながら考えていきたいと思ったのが、出発点であったと思います。

_細田監督ご自身が父親になり、子育ての真っ最中だという、まさにそういう過程にいらっしゃったのですね。

左から)百秋坊、九太、多々良
(c)2015 B.B.F.P

父親という目線は当然あるんだけれども、僕個人は、子どもはもっと沢山の人達の祝福や影響を受けて成長していくものだと思うんですね。例えば、この映画に登場する百秋坊(ひゃくしゅうぼう)や多々良(たたら)、また楓(かえで)という人たちは、当然、九太(きゅうた)の実の親ではないんですよね。でも熊徹を始め、そういった人達みんなに九太は育てられていく。みんなが九太の成長を励まし祝福しているみたいな、そういうことが子どもの成長には必要なんじゃないかと。逆に子どもを励まし、育てている側も、その子どもの成長から沢山のことを学び、共に成長していくのだと思う。そして、そこから生まれる関係性や絆からは、沢山の喜びや人生の豊かさを味合うことも出来るのだと思う。それくらい、私たち大人が子どもの成長に向き合い、係わることというのは素晴らしいことであり、大切なことであると思うのです。

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