#シブラバ?渋谷で働く、遊ぶ、暮らす魅力を探る

KEYPERSON

ストリートダンスを発信する街は、インディペンデントな文化が共存する渋谷しか考えられなかった。

パルコ・エンタテインメント事業部プロデューサー中西幸子さん

プロフィール

カンバーセーションにて、ジェーン・バーキン、騎馬オペラ『ジンガロ』、横浜みなとみらいを劇場にした野外スペクタクル「Les Mécaniques Savantes (博識な機械)」をはじめ、アジア、アフリカ、中南米など世界各国より多ジャンルの招聘舞台公演を企画制作。2011年3月パルコ入社、ASTERISK、s**t kingz、DANCE DANCE ASIA ~Crossing the Movementsなどストリートダンス舞台公演公演のプロデュースを手がける。

2015年11月、代々木公園をメイン会場として、「渋谷ストリートダンスウィーク2015」が開催される。この企画を中心的に進めているのは、パルコ・エンタテインメント事業部プロデューサーの中西幸子さん。長らく海外アーティストの招聘に携わってきた中西さんがストリートダンスに惚れ込み、渋谷ストリートダンスウィークを手がけた思いを語ってもらった。

フランス文化への憧れから、この業界に入りました。

_今、パルコではどのようなお仕事をされていますか。

所属するエンタテインメント事業部は80人近くが在籍し、パルコ劇場やシネクイント、クラブクアトロなどのコンテンツの企画・運営のほか、出版事業も行っていて、パルコの企業イメージを文化を通じて発信する役割を担います。今はダンス公演のプロデューサーとして、主に外部の会場でダンスのコンテンツを紹介しています。

_もともとは海外アーティスト招聘などの企画会社・カンバセーションで約30年間にわたりお仕事をされていたそうですね。

偶然が重なったのですが……。映画や音楽や食といったフランスの文化は、私の世代には特別な憧れがあり、短大時代から東京日仏学院(現在のアンスティチュ・フランセ東京)でフランス語を学び始めました。卒業後も通い続けていましたが、あるとき、恩師が「親友が面白い会社をつくった」と、カンバセーションを紹介されたんです。ちょうどカンバセーションでは、フランスのレコード会社の音源をまとめてリリースするプロジェクトを進めていて、私がフランス語の下訳を任せてもらうことに。そのうちに電話番したり、現場でアルバイトをしたりするようになり、何となく同化しました(笑)。

_海外アーティストの招聘とは、具体的にはどのようなお仕事ですか?

カンバセーションはちょっとニッチな会社で、メインストリームの文化ではなく、コンテンポラリーなダンスや音楽、またワールドミュージックなどの招聘を得意としていました。招聘するアーティストは、メディアや海外の友人から情報を得たり、偶然目にしたことからつながったり、情報源は本当にさまざま。コンタクトを取った後は、ステージのシミュレーションや条件交渉、パートナーやスポンサー探し、広報宣伝、入管手続き、運営……と仕事は山ほどあります。

山ほど手がけた企画の中で、特に忘れられない3つは……。

_特に印象的だった企画を教えてください。

ドゥドゥ・ニジャエ・ローズ公演の様子

忘れられない企画が3つあります。一つは1986年に初来日したセネガルのパーカッショニストのDOUDOU NDIAYE ROSE(ドゥドゥ・ニジャエ・ローズ)。彼はスティービーワンダーやデューク・エリントンがセネガルまで会いに行くほどのパーカッションの巨匠でした。セネガルは一夫多妻制なので4人の奥さんと45人くらいの子どもがいて、親類縁者だけで構成される250人のパーカッション・オーケストラを指揮していました。別のアフリカのパーカッショニストから教えられて彼を知り、何度もアプローチして33名のメンバーとともに来日が実現しましたが、その公演はまさに衝撃的。普段は穏やかでチャーミングな紳士でしたが、ひとたび太鼓をに向かうと血が煮えたぎるような演奏で、衣装も極彩色で素晴らしかった。公演は大成功で、その後、毎年のように20回ほど来日してくれました。

_それ以外の企画も教えてください。

2005年3月、奇跡の初来日が実現したジンガロ

2つめは、15年の準備期間を経て実現した「ジンガロ」という本物の馬が主役の演劇です。日本は世界中から素晴らしい表現者が訪れる夢のような国ですが、いくつか実現していないものの一つが、このジンガロでした。何しろ馬に2分半の演技を覚えさせるのには2年かかるそうで、日本の馬では代役が務まらない。そのため、条件交渉に時間がかかった他、建築基準法や検疫などのハードルが高く、こんなに時間がかかってしまいました。

3つめは、2009年の横浜開港150周年のランドマークイベントとしてフランスから招聘した機械仕掛けの巨大な蜘蛛。高さ13メートルの蜘蛛2匹が4日間みなとみらいで物語が展開、街が巨大な劇場となりました。日本の道路や海上をパフォーマンスで使用するにあたって、警察や海上保安庁との交渉に苦労しましたが、これもまた忘れられない企画です。それから、もうひとつありました。東日本大震災直後にひとりで空っぽの飛行機に乗って、日本を励ましに来てくれたジェーン・バーキンが日本のミュージシャンと行ったチャリティーコンサート。この出逢いがきっかけで、Together For Japanが立ち上がりメンバーはジェーンと世界で公演を行いました。

2009年4月、フランスのラ・マシンによる巨大な機械仕掛けによる「クモ」が横浜の街を歩き回った。

世界のエンターテインメントを動かしそうなパワーが「ストリートダンス」にはある。

_どのような思いを込めてアーティストを招聘したり、ステージの企画をしたりしているのでしょうか。

文化って特別な力を持つと思います。文化でお腹を満たすことはできませんが、それを通じて夢や希望は手に入る。大人になると夢を見ることを忘れてしまいがちですが、素晴らしいショーを観ることで子どもの頃のように夢を見たり「世界って面白い」と思い出してもらえるようにと願っています。それから現代では、政治や経済がコミュニケーションを主導していますよね。もっと文化が前面に出られると、争いや勝ち負けを超えた理解の輪が広がると思うんです。例えば、フランスは多民族国家ゆえに、お互いに分かり合う手段として国が文化を推奨したことで、あのような文化的包容力が育まれました。そのように、理解の輪、共感の輪を広げたいという気持ちが根底にあります。

_今年11月に開催する「渋谷ストリートダンスウィーク」にも、そうした思いが込められているのでしょうか。

その通りです。ストリートダンスと聞くと、きっと「若者のカルチャー」とイメージしますよね。実は私もそうでした。きっかけはフランスに演劇界では最高峰と評されるコメディ・フランセーズという国立劇団員の友人です。その友人に「最近は何が面白い?」と尋ねたら、「ヒップホップだよ」と奨められ、全く期待せずにロミオとジュリエットのストリートダンス版の公演を見に行くと、これが面白く目から鱗でした。まず身体的なスキルが素晴らしく、表現力、作品性も申し分なくて、何よりステージからポジティブなパワーがひしひしと伝わってきました。他の確立されたジャンルに比べてまだ荒削りなところもありますが、これからエンタテインメントの価値観を大きく動かしそうなエネルギーを感じたんです。日本ではまだ浸透していませんが、欧米ではストリートダンサーによる舞台作品は人気のプログラムで、世代を超えて楽しめる舞台芸術の一ジャンルとして定着しています。「これを日本でも紹介したい」と強く感じました。

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