KEYPERSON

風営法改正の立役者が目指す「夜間市場の開拓」。人と人をつなぐ「ナイトカルチャーの創出」が、渋谷をもっと面白くする!?

弁護士齋藤貴弘さん

プロフィール

1976年東京都生まれ、大学卒業後、2004年に司法試験合格。札幌での実務修習、栄枝総合法律事務所での勤務を経て、2013年に六本木・齋藤法律事務所を開設。2016年に弁護士の伊藤弘好氏と共にニューポート法律事務所を開設する。Let’s DANCE 署名推進委員会共同代表。ライブハウスコミッション・フード&エンターテイメント協会アドバイザー。

今年6月23日から施行された改正風営法。従来の風営法では、深夜12時以降にクラブや飲食店などでのダンスが一切禁止されていたが、今回の改正でダンスやライブ・エンタテインメントなどの営業が晴れて堂々と行えるようになった。今回のインタビューでは、ダンスの規制緩和に中心的な役割を果たした弁護士の齋藤貴弘さんを迎え、世論を巻き込んだ署名活動から法改正のプロセスまで、この数年間にわたる活動を振り返ってもらった。さらに今回の法改正に伴い、新たに創出される深夜12時以降の「夜間市場(ナイトタイムエコノミー)」は、これからの渋谷や東京の夜に一体どんな変化をもたらすのだろうか。ナイトカルチャーが持つポテンシャルとはーー。

なぜ、ダンスを風営法で規制するの!?

_6月23日に施行されたダンス規制に関する風営法改正について、改めてお尋ねします。2012年4月に大阪・梅田の老舗クラブ「NOON(ヌーン)」のスタッフが逮捕されるなど、全国各地のクラブで警察の一斉摘発が始まりました。そもそもきっかけや、問題は何だったのでしょうか?

当時の京都・大阪を中心とした一斉摘発は、街の治安の悪化が要因のひとつだと言われています。例えば、近隣騒音だったり、酔っ払った人が街で騒いだり、喧嘩や、さらには喧嘩に巻き込まれて人が亡くなる事件が起こったり…。一部地域で問題が深刻する中で、それ以外の地域も含め、広くクラブ営業の取り締まりが行われるようになってしまいました。

_他のクラブもとばっちりを受けてしまったということですね

街の賑わい創出と住環境の治安の維持という点で、それまで微妙なバランスで成り立ってきた関係が崩れてしまった。その結果、地域との関係も良好に保ち、うまく共生していたお店まで巻き添えになってしまったということはあると思います。また、騒音苦情などの酔っ払いによる迷惑行為は、クラブだけの問題ではなく、カラオケや飲み屋さんなど、本来は街全体の問題です。しかし、クラブの社会的なイメージはあまりに悪かった。暗くて大音量で、たぶん当時は芸能人の薬物関係のニュースなども話題になっていて、「ドラッグ=クラブ」みたいなイメージがピシッとはまってしまったのでしょう。「ダンス」が一律規制対象となっている法律の立て付けもあり、一斉摘発に発展していきました。摘発件数の全体は把握できていないのですが、かなりの人数の逮捕者を出し、閉店したお店も多くありました。大阪・アメリカ村はほぼ壊滅状態だったと聞いています。ちなみに、摘発されたNOON経営者は、地裁・高裁・最高裁とすべて無罪となっています。

_渋谷でも閉店せざる得ないクラブがあったと聞いています。取り締まり強化に対し、著名人を中心として署名運動「Let’s DANCE」が立ち上がりましたが、そのきっかけを教えてください。

坂本龍一さんや大友良英さん、いとうせいこうさんなど、アート界隈や文化的なイメージの強い人びとが賛同してくれました。彼らが発したメッセージは「クラブで朝まで踊れるようにしたい」ではなく、「ダンスや、みんなが集える場所を広く守っていこう」というもの。例えば、ペアダンスやサルサ、アルゼンチンタンゴなどの社交ダンスのほか、中学校の体育でもダンスが必修化されているなど、ダンスカルチャーは子どもからお年寄りまで層が広い。そういったダンスを「風俗営業として一律に取り締まるのはどうなのか?」と疑問を投げかけるところから始まりました。

_クラブではなく、ダンス規制そのものがおかしいじゃないかと。

そうです。法律自体、深夜12時以降は、一律どんな許可を取っても禁止。12時前は許可を取った場合のみ、ダンス営業を許されるという法律だったんですね。例えば、社交ダンス教室なども風俗営業として、いわゆるキャバクラなどと同じ法規制を受けていました。風営法はクラブを規制しているのではなく、ダンス全般を広く規制しています。あくまでダンス文化を守ろうという運動であったため、広くいろいろな人たちに共感をしてもらえたのだと思っています。署名してくれた人の中には70歳のおばあちゃんから小さな子どもまで。場所もクラブでの署名活動よりもフジロックなどの野外フェスだったり、普通の街中で行い、最終的に16万弱の署名が集まりました。

_署名が集められたのち、実際の法改正に向けて、どのようなアプローチを試みたのですか。

世論の関心が高まり、メディアでも取り上げてもらう機会は増えてきて。じゃあ、集まった署名をどうしましょうという段階となり、賛同する国会議員の中で「ダンス議連」という議員連盟を作ってもらい、そこに署名を手渡したんです。ただ、クラブカルチャーと言っても政治家の方々にはなかなかイメージを持ってもらえない。そこで政治家の方々に理解してもらうためにインバウンド観光だったり、クールジャパンのコンテンツ産業だったり…、ダンス、クラブの持つ可能性を説明しました。例えば、ロンドンオリンピックでは、開会式、閉会式ともにDJの人たちが音楽による演出を担当しました。一方、日本では「風俗営業」という枠に閉じ込められているため、そういったポテンシャルが大きく制限されている。かつそれが多くの人びとに悪いイメージを与えてしまい、健全な発展を遂げられていないのではないか、という話し合いをずっとしてきました。またクラブ業界としても、渋谷区のナイトアンバサダーであるZeebraさんなどのDJやアーティストなどが中心となって清掃活動を行ったり、事業者団体を組織して自主規制ルールを設けるなど、業界の襟を正していく活動も平行して行いました。

グレー営業から優良資本が参入しやすい市場へ

_そうした地道な活動の結果、法改正に漕ぎ着けて、今年6月から新しい法律が施行されました。具体的には何が変わったのですか? 

今まではダンスは「風俗営業」でしたから、先ほどもお話したように深夜12時以降は営業禁止でした。それからもう一つ、「飲食店では夜12時以降、遊興を提供してはいけません」という規制も旧法にはありました。夜12時以降は飲み食いをしてもいいけれど、それに遊びを掛け合わせては駄目ですよというもの。例えば、ホテルでやっているジャズバンドのライブ演奏、またスポーツバーでも応援イベントをやっていますが、ああいうものもグレー。それが新しい法律では、夜12時以降も営業許可を取ればできるようになりました。

_その営業許可というのが、新しくできた「特定遊興飲食店営業許可」ですね。

そうです。基本的に「お酒」が伴わなければ、許可の必要はなく、24時間営業しても全く問題なし。またお酒だけを提供するお店も許可は不要で、「深夜」「お酒」「遊興」の3つが重なるときは許可を取りなさいと。「お酒」と「遊興」が合体すると街の風紀が乱れるという、これが基本的な発想なんですね。もちろん、そこは曖昧な部分もあります。例えば、映画館でビールを出しているけれども、オールナイト上映はどうなんだろうとか、あれは飲食店じゃないとか。いろいろな細かなルールがあるのですが、そういう議論を国会議員と警察と一緒に1年半ぐらいかけて行ってきました。

_新たな「特定遊興飲食店営業許可」も名称が違うだけで、風営法とあまり大差がないということはないですか?

一般的に風営法というと、「性風俗」のことを思い浮かべる人も多いと思いますが、麻雀やキャバクラ、パチンコ、ダンスなどの営業もこれに該当します。「性風俗」「風俗営業」「飲食店」と3つのレイヤーで規制の強度を分けていて、今まで「風俗営業」の範疇だったものが、今回の改正で「飲食営業」に落とされたという点では、大きな立て付けの見直しが出来たと思っています。考えてみれば、今までクラブは深夜12時以降の営業を違法と承知しながら、グレーで営業を続けてきました。もちろん、それでも良かったという人もいるかもしれませんが、ただビジネス的なリスクはものすごく高くて、容易に新規参入できる業界ではありませんでした。いつ摘発されるか分からない業界に対して、銀行は融資しないし、事業計画すら立てるのも難しい。今回の改正に伴い、営業許可を取得することが条件ですが、これまでに比べ、ビジネス的なリスクは軽減され、様々な資本も参入しやすくなっています。また、これまではクラブで喧嘩があった場合、負傷しているお客さんがいるにも関わらず、店のスタッフは警察に通報できなかった。喧嘩した人たちをお店から追い出して、それで終わり。もし通報すれば、深夜12時を超えて違法営業をしていたことが分かってしまう。適法に営業できるようになれば、店舗は警察との連携もとりやすくなり、安全性、健全性を担保できる。渋谷でも、長谷部区長を中心に健全なまちづくりのコンテンツの一つとして、積極的に取り組んでいこうとしています。

_ちなみに営業許可は、簡単に取れるのですか?

現段階では許可取得のハードルはかなり高くなってしまっています。取ろうと思っても、地域要件として、大規模繁華街でないと許可を取得できず、構造要件として、客室面積は33平米ないといけないとか…。まだまだ改善しなければならない規制は多くあると思います。

_あとよく聞くのが室内の明るさの問題ですね。

子どもからお年寄りまで楽しんでいるダンスは、「確かに風俗営業ではない」と警察も了承したわけですが、ただ、やはりクラブ営業に対する危機感は強かった。そこで、ほとんど運用実績がなかった「低照度飲食店」という風俗営業の規制業態があるのですが、クラブはそれに該当するということで引き続き風俗営業としての規制下に置こうと。それに対しては、クラブ業界のみならず、ライブエンターテイメント業界も強く反発しました。クラブもライブも照明やレーザーによる演出は必須ですし、そのためには当然ですが照度を落とす必要があります。警察との折衝のなかで、最終的には照明による演出が必要な「遊興スペース」や「ダンスフロア」は真っ暗でいいですよ、というところまで譲歩を引き出し、その代わり、VIP席なども含む飲食スペースについては、照明の明るさを「10ルクスを保ってくれ」という話になったんです。このような地道な働きかけがなければ、クラブのみならずエンターテインメント全般がいまだ風俗営業の枠内にあったと思います。もちろん、まだ課題は残っていますが、その意味では大きな改善だと思います。

オススメ記事

最新記事

カテゴリーから選ぶ