#シブラバ?渋谷で働く、遊ぶ、暮らす魅力を探る

KEYPERSON

渋谷が面白いのは「全種族オーケー」なところ
まちづくりには「ちょっと、ばかじゃねえ」という推進力も必要

コピーライター/「ほぼ日刊イトイ新聞」編集長糸井重里さん

プロフィール

1948年群馬県生まれ。法政大学中退後、広告プロダクションに入社。1972年、フリーのコピーライターとして活動を開始し、1975年にTCC(東京コピーライターズクラブ)新人賞受賞。「不思議、大好き」「おいしい生活」(西武百貨店)など数多くのヒットコピーを生む。そのほかにも作詞、文筆、ゲーム製作などの創作活動も行う。1979年東京糸井重里事務所設立、1989年APEエイプ設立。1998年、インターネットホームページ「ほぼ日刊イトイ新聞」を開設。1日の総アクセス数は140万件を越える。

まちづくりには、「ちょっと、ばかじゃねえ」という推進力も必要

--そういう飛び越えたものをつくる発想はどんな人から生まれるのでしょうか。

もう、お金持った人がやってくれないとね(笑)。普通の人なら、発想って仕事にならないから、夢想になっちゃう。だから、株主が何て言うのかなっていうのを考えているようじゃ、きっと何もできないんでしょうね。そういう意味では「明日の神話」を渋谷に運び入れようというのはやはり、結構お金がかかることだし、あれは「おお、いいな」って思いますね。だから、稼ぐ知恵と、使う知恵と両方持った人が、やはりそのイニシアチブを持って采配を振るってくれないと、面白いことはできないと思います。

--昔、乗っていらっしゃった東横線が数年後に渋谷が終点でなくなることはどう思いますか。

とくに何ともないです。やはり、それは道具なんですね。道具そのものの好き嫌いがある人がいるのは分かりますが、僕はやはり人間に興味があるので、人間のことばかりに興味が向きます。嫌がる人がいるだろうなっていうことは想像できる。さみしいとか。でも、「さみしい」が何かをつくってくれたことないんですね。涙の中から「じゃあ」って言わないといけないので。そこから未来の渋谷にちょっと期待してみようかなという風にはなりませんよね。やはり人だと思います。1人でも2人でもやれるっていう、進められる実行力を持った人が発想を持てば、あるいはその発想の人たちと組めば、楽しいことがあると思います。それで、いちいち皆さまに問い合わせなんかしないで、「やりたいんですけど、やります」っていう、それがやはり実現してほしいですよね。お問い合わせすると、今まであったものを順番にみんなが挙げるんですよ。足りないところを挙げるんです。すると、どうしても後ろ向きになってしまいます。「ちょっと、ばかじゃねえ」という推進力って、やっぱり必要ですね。

--「ほぼ日」が6月で10年を迎えました。結果的に続いてみて、いかがですか?

あまり設計図を書いて動くタイプじゃなかったものですから、無我夢中で、あまり分かってないで、大変だ、大変だって言ってやっていたらここまできちゃったっていうのが実感です。改めて振り返って、良かったなと思うのは、やはりわがままにやってこれたっていうことだと思います。ですから、いろんなプロジェクトとか連載とかでも、マーケティングするわけでもなく、民意を問うわけでもなく、「やりたいんだけど」と言ったら、誰もいなくてもやろうとか、売れないかもしれないけど自分たちが欲しいとか、そういうのをやってこられたのが、やっぱり何とかなった理由じゃないかと思います。少なくとも飽きずにやってこられたことは確かです。つくっている人が飽きちゃってたら、お客さんも飽きちゃうに決まっている。その意味ではさっき言った、いわゆるマーケティングの会社じゃなかったからできたんだろうなっていうのは思います。

--「ほぼ」じゃなくて、結局お休みがありませんでしたよね。

そうなんです。「ほぼ」って言ったのは、本当にいい考えだった。その考えが良すぎたので、もったいないんですね。いい傘を買っちゃったんで、雨降ったのに差せないよっていう(笑)…。今の例えはぴったりだな。濡れていこうみたいな、こんな短い距離だったら使わなくていいよ…みたいなね、そういう感じですね。

--その中から吉本さんの企画も出てきました。どんなところを伝えていきたいですか。

僕は、僕が食べた物がおいしかったよっていうのと同じように、(吉本隆明さんの本で)本当に助けられたっていう思いがあります。ありとあらゆる場面で、やはり吉本さんの言葉にヒントをもらったり、助けてもらったりしたっていう、掛け値なしにそういう気持ちがある。そういう人がいてくれてよかったっていうことは何かと言っていたんですね、近くの人には。それで、吉本さんの講演の音源があったのですが、このままいったら録音テープが劣化していく、という状況でした。建物が朽ちていくのを手をこまねいているわけにいかないから、まずは移築するなり、修理するなり、その仕事を引き受けましょうと言ったのがきっかけです。さっきの、「明日の神話」を置いておく場所がないというところがなければ渋谷へ来ることもなかったのと同じで、どこでもいいよといったら、渋谷に呼ぶ必要はないわけですね。この話も、カセットテープでも何でも、別に劣化もしないし、何とでもなるよって言われていたら、それはそれで、そのままになっちゃったのかもしれません。でも、劣化するテープがあったせいで、こんなになっちゃったということです。

つまらない日も実は大事な一日。その考え方が「ほぼ日」のベースにあります

--吉本さんのお話しで、糸井さんが一番受け止めていらっしゃるのは、どういうことですか?

どこもなんですけどね…。実用に役立てている面もあるし、それから自分の心とか、魂の部分に触れてくる部分もあるので…。やはり宗教にかかわる、親鸞とかキリストとか、そこから派生して民俗学の柳田国男とか宮沢賢治とかの話にもなりますけど、宗教にちょっとでも触れているものの方が聴き応えがあって、何度でも聴く気になりますね。親鸞はやはり、ちょっと格別の思いがあります。今の若い方にも、たぶん聴くとヒントになるようなことがたくさん入っています。ビジネスマンに役立つこともありますしね。ですから、例えば最近出た本で「ビジネス書はなぜ間違うのか」という本がビジネス書の中でも売れているらしいのですが、なぜ間違うかということを、その本を読まなくても吉本さんは証明できるんですよ。つまり、枝葉の葉っぱ同士を比べたら、誤差が多いに決まっているっていうことなんですね。根っこまでさかのぼると誤差は少なくなりますよね。あぁそうか、自分が八百屋さんだったときに、よその八百屋さんがどううまくいったかっていう勉強をしたら、自分はうまくいくとは限らないんだ。逆に、人が物を買うって何だろうとか、食べるって何だろうっていうところまでさかのぼったら誤差の少ないサービスが考えられるとか…それはもうビジネスとしての発想にそのまま役に立ちますよね。恋愛中の人であれば、例えば「何とかっていう映画が好きなのよね」と言ったからと言って、それに似た映画を借りてきても喜ぶとは限らないわけで。何で好きなんだろうって分かった人が、結局恋愛が成就する。そんなようなことが、もうこの中にいっぱい入っていますから。

--こういうパッケージ感も、いい意味で大事だと思いますね。

そうですよね。デジタルで配るとコストがかからなくていいんですけど、残念ながら価値を認めにくくなってしまう。内容が勝負だとはいうものの、内容は本当に聴くまでは分からないわけですし。その人によって内容が変わるわけですから、そういう意味ではデジタル音源としてもし販売したとしたら、人は買わないでしょうね。黒字になるまでちょっと時間のかかる仕事になると思いますが、やれて良かったと思います。重たくて迷惑だというのを含めて(笑)。どこか、社長室とかにあったら似合うんじゃないですか。飲みにいったら5万円ってすぐになくなっちゃいますが、これは、もう、どれだけ聴いても、その都度身になりますから。

--どんな人にお勧めしたいですか。

僕はやはり、企業の責任を持っている人に先に買ってほしいです。近く選挙もあると思いますが、ワイドショーのようなレベルでうわさ話みたいに考えることはやめてほしいんですよ、もう。根っこのところで考えるという癖を、リーダーシップをとる立場の人に身につけてほしいですね。昔の人は曲がりなりにも書にたけているとか、ショーペンハウエルがどうだとかって、一回は青臭いことを言った経験のある人が「利益だ!」とか言っているわけで、それなりの迫力があるんですよね。だけど、今はやはり先にMBAみたいなところにいってしまうので…。小倉昌男さんの本とか売れたときに、わぁ、いいなと思いましたが、あのくらいの時代の人たちにもっとコンプレックスを感じてほしいですね。むちゃくちゃさも含めて。

--そうした根っこをちょっと考え直そうじゃないかというのが、吉本さんのお話の根底にあるわけですね。

そう思います。付け焼き刃で経済力を学ぶにも、ちゃんとこの中に入っていますし、アダム・スミスから…とても便利ですよ。

--「ほぼ日手帳」の方も今回は細やかな改良が重ねられましたね。

細かいというよりは、逆にその細かさに重要な部分があるって考えるのがラジカルだと思うんです。(グラフィックデザイナーの)佐藤卓さんって「何々ってなあに?」という発想をする人なんですよ。せっけんだったら「せっけんってなあに?」というところから発想するデザイナーなので、手帳にしても「毎日つける手帳ってなあに?」というところから、もう1回見直してやってくれたんです。、細部にこそ神が宿るということですね。そういうことで、今年のリニューアルは、この先にも影響を与えるような改良になっていると思います。

--手帳とは日々使うツールとして「ほぼ日」とつながっているのですね。

ええ。デイリーな発想というのが、やはり何か基本のような気がしています。一日がつまらないというのは、つい思えるんですよ。「あぁ、つまらなかった」ってね。それで「たまに面白い日があるからいいんだよ」というようなことを言うのですが、つまらない日も結構大事な一日なんです。その考え方が「ほぼ日」のベースにあります。つまらない一日も結構、実は大事な一日ということと、つまらない人間も結構大事な人間というところがおなじことを言っている。能力主義や、パワー信仰や、順番を付けるようなことを言う人がいるのですが「順番を付けている君は、取るに足らないやつっていう扱いなんだよ」って、ちょっと言ってみたいというか…。そんなことをしてるより、何でもない友達同士でいる時間のほうが本当はいいじゃんって。そっち側に今、僕らはどんどんいろんな開拓地をつくろうとしているよっていう、メッセージがあるんでしょうね。

--その毎日の積み重なりが面白いものにやはりつながっていく?

そうですね。重ならなくてってもいいぐらいです。パソコンから1時間離れるという練習をしようって言っているんです。離れたときに、とりあえずすることがなかったら天井を見ていてもいいと。それは、天井を見ている時間も勤務時間とカウントするからってはっきりと僕が言えば、みんなの気持ちが本当にそのディスプレイから目を離すことができると思います。そのくらいまでやらないと、全部が役に立つ時間に感じさせ過ぎちゃうんです。だから毎日と言っているのも、「毎」のところよりも、いかにその「日」のところに積み重なろうが、雲散霧消しようが、一日は一日で、心臓はわけ隔てなく動いていますから、そのことの大事さみたいなものを何か言いたいですね。

ほぼ日イトイ新聞

ほぼ日手帳

「生活をたのしむ道具」を目指して2002年に生まれた手帳。2009年版ではグラフィックデザイナーの佐藤卓さんが一からデザインを見直しリニューアルを行いました。ほぼ日ストアとロフトで発売中。

「吉本隆明の声と言葉。」−その講演を立ち聞きする74分
編集構成:糸井重里 価格:1,500円

吉本隆明さんのたくさんの講演の中から、糸井重里さんが選び、音源を少しずつ切り出して構成した約74分のCDとブックレットがセットになっています。

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