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KEYPERSON

渋谷駅の魅力は、計画通りにはおさまらないダイナミズム

昭和女子大学環境デザイン学科准教授田村圭介さん

プロフィール

1970年、世田谷区生まれ。1995年、早稲田大学大学院理工学研究科建設工学(建築)修了。一級建築士。2002年、エフオーエー・ジャパン勤務時代に横浜港大さん橋国際客船ターミナルの設計監理を担当。1997年より渋谷駅の研究をスタートし、2010年に渋谷駅のコンコースを展示会場とするアーバンエキスポ「shibuya1000_02」で、渋谷駅の変遷を模型で初めて発表。以後、2011年4月に「渋谷駅体展」、2011年9月に「渋谷駅体内展」、2013年に「渋谷駅体得展」など、渋谷駅の模型やドローイング、研究データ等を発表し続けている。主な著書は『SHIBUYA 202X―知られざる渋谷の過去・未来』(共著、日経BP社)、「迷い迷って渋谷駅 日本一の『迷宮ターミナル』の謎を解く」(光文社)など。昭和女子大学環境デザイン学科准教授。

「建築を勉強していながら、渋谷駅で迷ってしまった」―― その経験をきっかけに、「迷宮」「ダンジョン」と呼ばれる渋谷駅に魅せられたという建築家・田村圭介さん。「まるで、きのこの観察みたい」と渋谷駅の研究をたとえ、刻々と変わり続けてゆく駅やまちの姿に目を輝かせます。今回のインタビューでは、2013年8月3日から8月25日までの期間、渋谷マークシティ4階・クリエーションスクエアしぶやで開催された「渋谷駅体得展―1/100模型で渋谷駅の世界を知る―」の展示内容を通じ、模型制作におけるコンセプトから、東横線と副都心線の相互直通運転前後で変化した人の動きや流れについてお話をうかがいました。15年の長きにわたり、渋谷を研究してきた田村さんは、この街の魅力をどのように見ているのでしょうか。

渋谷の複雑さを紐解くため、渋谷駅を100分の1サイズで再現

_「渋谷駅体得展」のコンセプトを教えてください。

コンセプトは、ずばり渋谷駅の複雑さ。渋谷駅の全体像を皆さんに理解していただき、共有してもらいたいということです。2013年3月16日に東急東横線と副都心線が相互直通運転を開始し便利になったという声と同時に、東横線渋谷駅が地下化して分かりにくくなったとか、迷いやすくなったなどの声も出ています。そこで、もう少し渋谷駅の全体像を把握し、さらに渋谷駅の歴史を理解してもらえれば、そうした皆さんの煩わしさも少しは解消されるのではないかと考えました。

_展示模型の縮尺サイズは?

相直以降の現在の渋谷駅を100分の1サイズで再現しています。大きさは、だいたい奥行きが4メートル、幅が3メートル。ただし、高さだけはワークショップを実施するときに、階と階の間にスムーズに手が入るように、あえて倍の50分の一の縮尺にしています。結果的に階と階の間にほど良いスペースが生まれ、駅全体の構造を把握しやすくなったと感じています。また、塗装や加工は一切せず、木材の質感をそのまま生かすことで「一つの塊としての渋谷駅の全体」を伝えたいと思っていました。

_制作にあたり、駅をどうやって実測されたのですか。

言ってしまえば、本当であるし嘘であるというのが正直なところ。僕たちは渋谷駅の研究を始めて以来、古雑誌、古写真等の中にぽろっと図面が載っていたものを少しずつ収集し、それを継ぎはぎしながら全体像を把握してきました。また、どうしても分からない場合は現地に行けば駅があるわけですから、実際にフィールドワークをして、空間構造や距離を調べてきました。建築では図面があれば一発で全体が分かるのですが、各事業社からはそれをいただくことはできませんでした。しかし、それがなかったおかげで、苦労しましたが、時間がかかったのでじっくり取り組むことができましたね。渋谷研究を思い立ってからの歳月を考えれば、ここに辿り着くまでに15年を費やしています。

100分の1サイズで再現された渋谷駅(奥行き4メートル、幅3メートル)

渋谷駅には地上と地下に2つの「L(エル)」が存在している

_制作工程を通じて、新しく発見したことがありますか?

駅全体の空間構造なのですが、ずっと眺めているうちに新たな視点に気が付いたのです。それは、渋谷駅に地上と地下に二つの大きな「L(エル)」が存在していること。まず、一つ目は山手線と銀座線、井の頭線に沿って構成する地上の「L」。もう一つは半蔵門線、田園都市線と副都心線、東横線で構成する地下の「L」です。今回の展示模型を上から俯瞰して見てもらうと、その2つの「L」がずれて見えるのがよく分かります。不思議なんですけど、前回の「渋谷駅体内展」で500分の1の模型を作ったときには全く気が付かなかったのですが、100分の1にサイズアップしたことで、なんとなく見えてきたことなんです。

_面白いですね。なんで、「L」なんでしょうか?

渋谷川に跨る形で東横線・旧渋谷駅や東急百貨店東館が建っている。

それは、やはり渋谷川の影響が大きいと思います。渋谷駅にとって「川越え」はものすごく大きなテーマなんですね。渋谷川と平行する形で考えるときもあるし、川越えを上でするか、それとも下を通すかということで、駅の空間構造にも影響を与えているのでしょう。とても面白いことですが、この2つの「L」は必然的に生まれてきたもので、それは渋谷駅の長い歴史の中でおのずと出てきた解答なんじゃないかと。よく渋谷駅は迷宮とか言われていたりしますが、実は意外に明解なんじゃないかと思ったりします。

_今回の展示では、模型に「人型」のペーパークラフトを置いていますが、その目的を教えてください。

建築模型用添景セットなどを企画・販売する「TERADA MOKEI(テラダモケイ)」とのコラボレーションで、ワークショップに参加した方々に1/100サイズの「人型」のペーパークラフトを渋谷駅の至る場所に設置してもらっています。1回のワークショップで1人約15体まで置いてもらうのですが、不思議なもので、なぜか密集している場所とそうではない場所に分かれています。特にスクランブル交差点周辺には人型が密集しており、何となく現実味を帯びています。一方で、階段から落ちている人型や、逆立ちをしている人型など、普通ではありえないシーンを作って楽しむお笑い路線の人もいて、なかなか面白いですね。最終的には1万体くらいの人型を模型上に乗せたい。というのも、1日280万の乗降者数の人が渋谷駅を利用しているのですが、3、4分間くらいの時間で考えた場合、その瞬間に同時に渋谷駅にいる乗降客数は約1万人の計算なんです。なので、その3、4分の瞬間に渋谷駅にいる人の数を物理的に模型で実際に見てみたいと思ったのです。

>>TERADA MOKEI(テラダモケイ)

「きのこ」の変化を観察者という立場で、ずっと追いかけていきたい

_渋谷駅の変遷を3Dプリンターで表現した「駅体展」(2011年4月)、地下構造を模型化した「駅体内展」(2011年9月)など、今までの研究の経緯について教えてください。

当初は、現在の渋谷駅の模型をつくろうと考えたのですが、文献を調べているうちに歴史と共に積み重ねられて成り立っている駅が見えてきて、じゃあ、その変遷を全部形にしていったら面白いんじゃないかと。「駅体(えきたい)」という言葉も僕が作ったのですが、その言葉には有機体のように渋谷駅がどんどん増殖したり、形を変化させていくイメージを持たせています。

渋谷駅の変遷を3Dプリンターで表現した「駅体展」(2011年)(写真提供:昭和女子大学田村研究室)

2011年の「駅体展」で外観からその変化を観察し、その翌年の展示会では「駅体内展」として、その対象を外観から構内へ移行し、駅の中身・動線がどう変わってきたかということを表現してみたくなって。ただ、僕にとっては駅体展と駅体内展、外観と中身に対する興味はどちらが先でどちらが後ということはなく、ずっと平行して研究を進めてきたことなんです。中が分からなければ、実は外も見えない、それは体の筋肉と皮膚の関係と一緒です。とはいえ、分かりやすい外観よりも先に「駅体内展」を発表しても、おそらく世の中の人びとには理解してもらえない。それで、ひとまずは駅体展から始めたのですが、それが思いのほかウケが良くて。じゃあ、2回目はいよいよ中身をやろうということで実現し、ようやく皆さんと共有できたのかなという手応えを感じました。人に見せて理解してもらうには、順番やタイミングがとても大事だと思いますね。

>>特集企画:学んでみよう−「東横線渋谷駅」と「東急東横店」のヒストリー

_駅体内展では駅地下を500分の1サイズで表現しましたが、今回の駅体得展では、なぜ100分の1に大きくしたのですか?

もっと単純に分かりやすく、皆さんが一目で把握できるものにしたいと考えました。今回は、やはりテラダモケイさんとのコラボレーションもイメージして、この縮尺に落ち着いたところが大きいです。自分的には、前回の500分の1も、今回の100分の1の模型も実は何も変わっていないんです。ところが、500分の1の模型を見せたとき、皆さんの印象は「ああ、蟻の巣みたいだね」というイメージ模型だけで終わっちゃったんですよ。でも今回、100分の1にした途端にみなさんが自分の普段使っているルートをたどるんですよ。一気に理解していただける度合いが深まり、レベルが変わっちゃって(笑)。観てくれた人の反応やメディアの反響も含め、前回とはもう全然違うわけです。僕自身、スケールという表現についてすごく学びましたね。

_「駅体展」→「駅体内展」→「駅体得展」とシリーズで展開してきましたが、この先はどうなるのでしょうか?それとも完結なのでしょうか?

それはすごく言われちゃうんですけど、僕としては「完結していない!」と言いたい。なぜかといえば、渋谷駅は変化し続けるから。正直、まだ次のことも考えていないんです。ただ、これから渋谷駅の再開発が進み、渋谷駅周辺は高層化していきますので、僕はそれを追っていくことになるでしょう。もちろん、渋谷駅は社会や経済などの動きと連動しているので、単純ではないと思っているのですが、それを「きのこ」と表現しています。要するにどういう風が吹く、どういう湿った空気を持った空気が流れるかで、そのきのこの増殖の仕方も異なるし、あるいは衰えて小さくなってしまうかもしれない。僕は、そのきのこの変化を観察者という立場で、ずっと追いかけていきたいと思っています。

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