KEYPERSON

109前のスクランブル交差点で、
「年末カウントダウンイベント」を実現したい。

「Printworks Studio Shibuya」店長/道玄坂青年会会長長谷川賀寿夫さん

プロフィール

1972年(昭和47)渋谷・神泉生まれ。立教大学卒業後、大手住宅メーカーの営業として約8年間勤務。30歳を機に退職し、父、兄をサポートするため家業である「長谷川印刷」を手伝う。営業を担当するほか、「プリントショップサン」のマネージャーとして手腕を振るう。2014年11月、道玄坂に活版印刷機が使える工房「Printworks Studio Shibuya」をオープンし、店長としてお店の運営に携わる。

3Dプリンターやオンデマンド印刷など、印刷業界のデジタル化が加速する中で、昨年2014年11月、手動式の活版印刷機がレンタルで使えるスペース「Printworks Studio Shibuya(プリントワークス スタジオ シブヤ)」が道玄坂にオープン。同店を手がけたのは、渋谷の老舗印刷会社の次男として生まれた長谷川賀寿夫さん。「凹み」「かすれ」など、従来の印刷ニーズと逆行する活版印刷の面白さを知った長谷川さんは、同店を通じて古い機械ならではの作品づくりの魅力を多くの人びとに伝えていきたいという。今回のキーパーソン・インタビューでは長谷川さんを迎え、「活版印刷の魅力」を十分に語ってもらうとともに、道玄坂青年会の会長という立場から「再開発に向けた道玄坂の課題」についても触れてもらった。

幼少期に紙くずと触れ合い、その感覚が活版印刷へと結びつく。

_長谷川印刷の創業は昭和2年と聞いていますが、家業の歴史を教えてください。

もともと祖父が昭和2年に文房具屋を開業。東大に通う学生さんが、渋谷駅から駒場東大前まで通うルートの途中にお店があって、学生さん向けに商売をしていたといいます。場所はちょうど東急本店から旧山手通りに抜ける道沿い。道路の拡張工事に伴い、30年くらい前に、そこから200メートルくらい離れた現在の場所(神泉)に引っ越しました。

_文具屋さんから印刷屋さんに業態を変えたのは、なぜですか?

文具販売の流れで、学校や会社などから印刷の注文が少しずつ増え始めて、印刷屋に転身したと聞いています。その後、東京大空襲でお店はすべて焼失したそうですが、祖父たちが我武者羅に働いて立て直したそうです。戦後は印刷や紙の需要も高まっていた時期でしたから。

_本社・工場は神泉、また名刺などのオンデマンド印刷が出来る「プリントショップサン」も道玄坂で展開されています。その中で、長谷川さんご自身はどのような仕事をされているのですか?

大学卒業後、住宅メーカーに就職し、営業職として約8年間働いていました。3代目は兄が継いでいますが、30歳を機に兄をサポートして家業を盛り上げていきたいという気持ちが高まり、家業を手伝うことに。現在は、住宅メーカー時代の営業経験を生かして対外的な営業を担当する傍ら、「プリントショップサン」のマネージャーなども行っています。

_オンデマンドや3Dプリンターなど、印刷業界のデジタル化が進む中で、なぜ今回、道玄坂に活版印刷ができるショップ「Printworks Studio Shibuya」をオープンしようと考えたのですか、そのアイデアのきっかけを教えてください。

印刷業界のみならず、一般的にもSNSが流行し、ビジネスでもiPadでプレゼンするとか…、みんながずっとインターネットを見続け、四六時中デジタルの波に揉まれている環境がありますよね。でも、改めて僕自身の幼少期の記憶を辿ったときに、紙に対する思いがすごく強いことに気付いたんです。実家には断裁した紙くずなどを貯めておくため、地下に紙の捨て場みたいなところがあったんです。僕が子どものころ、そこでよく遊んでいたので、「紙に触れる」という感覚みたいなものが今でも体に残っているんですね。おそらく、こうした幼少期の体験が、アナログである活版印刷機への興味を喚起するバックグラウンドなんだろうと思います。

クラシカルな雰囲気を演出するため、お店では必ず帽子を被って接客を行うという。

わざと凹ませたり、かすれさせたり、今までの印刷と逆の発想で。

_活版印刷の魅力は、どんな点にありますか?

活版印刷で刷ったポストカード

たとえば、紙を活字でわざと凹ませたり、インクをかすれさせたりなど、そういうことが出来るのが活版印刷の魅力だと思う。今でも、昔からやっている活字屋さんや、活版印刷屋さんは都内に数軒残っています。その店主はみなさん70〜80歳くらい。昔ながらの活版印刷屋さんは、なるべく凹ませない、かすれさせない、キレイに均一にインクを載せるなど、いかにキレイに印刷するかという技術がとても重要だったわけです。ところが、デジタル化が進み、オンデマンドで簡単にキレイな出力ができる時代においては、デザインやアート性が求められていて、いかに凹ませるとか、あえて紙の質感を出すなど、従来とは逆のニーズが生まれ始めています。印刷屋は「これやっておいて」と単純な受注業務を受ける一業者になってしまうところがあるのですが、それでは寂しいと。受注だけではなく、こちらから提案しながら、お客様と一緒に作り上げていける場が出来たら楽しいだろうなというのが、このお店をオープンした理由です。活版印刷は550年の歴史がある古い技術ですが、それを新たな表現ツールとして活用しながら、新しい価値を作っていきたいと考えています。

_オフセット印刷やオンデマンドに比べると、明らかに儲からない商売だと思いますが、ご家族の御理解をすぐに得られましたか?

人が楽しいとか、人に幸せを感じてもらえるようなものは、商売的には長続きするものだと思っています。現在、印刷業界はどこも価格競争みたいなところがあって、差別化を図っていくというのがとても大事になっています。そういった意味では、活版印刷が一つの差別化になるのではないかと家族にプレゼン。社長も「そういう案もありかな」と理解を示してくれました。たとえば、名刺一つ出すにしても、オンデマンドで作った名刺を受け取るのと、活版印刷で刷った名刺を受け取るのでは反応が明らかに違い、「へぇー活版印刷なんですね」とか、そこで必ずコミュニケーションが生まれると思う。デジタル化が進む印刷業界にいるからこそ、そういう人の温かみを感じるアイデアが生まれてきたのかもしれません。

_このスペースで使っている「手動式活版印刷」は、昔、長谷川印刷で使っていた機械なんですか?

レタープレス活版印刷

いいえ、違います。確かに「プリントショップサン」をスタートした40年くらい前、注文を受けていた名刺の印刷は、半自動の大型の活版印刷機で刷っていました。でも、デジタル化の波に伴い、その機械も処分してしまったという経緯があります。今回、このお店をオープンするにあたり、中古市場をかなり探し回りました。なかなかなくて、いろいろなツテを使いながら30年前の手動式の機械を3台、なんとか確保しました。

_結構高いものなのですか?

いえ、安いですよ。というか、現在の印刷機と比べればという話ですが、市場の相場はだいたい1台20万円前後くらい。値段が云々というよりも、機械そのものが希少なので、デザイナーさんとか、新しい発想で活版印刷を使いたいと思っている僕のような人は、常に探していると思う。

_メンテナンスや修理が出来る人は、今でもいるんですか?

構造はシンプルで、ものすごく頑丈に出来ているため、壊れることはほとんどないですね。もちろん簡単なメンテナンスはうちでも行いますが、そう手間が掛かるものではありません。活字はパソコンデータから樹脂版を起こして活版印刷に使えますので、フォントも自由に使うことが出来るんです。

_活字は金属ではないんですね。

活版印刷というと金属製の活字をイメージされる方が多いと思いますが、30、40年くらい前から樹脂版を使用する流れがあります。金属の活字は紙を凹ませようと圧をかけていくと活字を傷めてしまいますが、樹脂版は文字だけではなく、ロゴやイラストなどデータから自由に作れて簡易的です。従って、活版印刷機で何かを刷る場合は、まず製版屋さんに依頼し、データから樹脂版を起こしてもらうという工程が必要となります。要するに印刷用のハンコを作るわけですね。たまに、会社の封筒を活版印刷でやりたいという人が相談に来るのですが、単に早くキレイに刷りたいのなら、オフセットでやったほうが良いですよ、って言うんです。お客様が一体何を求めているのか。キレイに刷りたいのか、それとも1枚1枚かすれた味わいを出したいのかなど、時間もコストも掛かる活版の価値をどう捉えているのかが大事です。

フリーwi-fiや、ものづくりが出来る作業スペースを備えている。

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