KEYPERSON

渋谷を3Dデータ化したら、街の価値がもっと見えてくると思う。

ライゾマティクス代表取締役齋藤精一さん

プロフィール

1975年神奈川生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からNYで建築家として活動を開始。その後、ArnellGroupで広告に携わり、2003年の越後妻有トリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。2006年にライゾマティクスを設立し、代表取締役に就任。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブ作品の制作に取り組む。最近では経済産業省との共同プロジェクト「3dcel.」(3D City Experience Lab.)や、今秋に立ち上がる「1964 SHIBUYA VR プロジェクト」など、3D都市データの整備・公開に力を注ぐ。東京理科大学理工学部建築学科非常勤講師。

もし1964年の渋谷VRが実現したら、結構夢があると思う。

_渋谷駅の地下空間の3Dデータができましたが、さらに次の展開を考えているのですか?

もう1つ、3D都市データのプロジェクトから派生し、1964年の「東京VR」「渋谷VR」を作ろうというプロジェクトを、日本テレビのゼネラルプロデューサー・土屋敏男さんと進めています。土屋さんは「今昔鎌倉」という、昔のまちの写真を収集して、同じ場所・同じ人が同じポーズで撮影を行い、まちの今昔を見比べるプロジェクトを行っていて。そのプロジェクトを見ていたときに「写真がいっぱい集まると3D化できるんですよ」と僕が言ったら、「えー! マジで」みたいな。「フォトグラメトリ」という技術なのですが、多視点の写真がいっぱい集まると、それを立体化することが出来ます。ちょうど日本テレビが「日テレラボ」という基礎研究所を立ち上げた頃で、何か新しいことに挑戦していきたいと思っていた矢先で。さらに僕らが都市の3D化で渋谷をフィールドにしていたこともあって、じゃあ手始めに渋谷でやってみますかと。そこで東急電鉄さんに協力してもらい、1964年頃の社内報などで使われている写真をお借りして、実験的にデータを起こしてみたら、結構ちゃんとした街の3Dが出来上がったんです。「これは勝算があるぞ」と確信して、Autodeskさんにも技術協力いただいて、本格的に取り組んでいこうということになりました。

_1964年の渋谷を3D化するにあたり、古い写真をどう集めるのですか?

渋谷ヒカリエで9月25日に開かれた「1964 TOKYO VR」発足の記者会見。左から齋藤精一さん、長谷部健区長、萩本欽一さん、東急電鉄・野本弘文社長、日本テレビ・土屋敏男さん

東急電鉄さんから200枚弱、渋谷区や郷土資料館からお預かりしたもの、それから新聞社・報道関係者が持っている上空写真などを集めています。昨日もそれらの写真を見ながら選別していたのですが、これは緑屋(現・渋谷プライム)の屋上から撮っているとか、これは力道山のリキパレスが見えるから、道玄坂のほうだとか、神泉のほうだとか。結構、年代が分からない写真も多いのですが、この車が走っているから、たぶん1970年代かもしれないとか、一枚一枚写真を確認しながら場所や時代を確定しているところです。また写真集めは企業や行政のみならず、個人所有のものも広く一般募集していこうと考えています。昔から「押し入れのIoT化」と言っていますが、おじいちゃん、おばあちゃん、お父さんとか、お母さん、また1964年に生きていらっしゃる方に聞くと、それぞれが1964年に思い出を持っているんですよ。例えば、「九段下にいたんだけど、ブルーインパルスの音がすごかった」とか、「テレビが白黒だった」とか…。別に1964年じゃなくてもいいんですけど、やっぱり東京五輪の年で記録映像や記録画像などが多くて、イベントなどで記念撮影をした人もきっと多かっただろうから、写真も集めやすいのではないかと。さらに土屋さんとの交友関係から、大御所の萩本欽一さんにも協力していただけることになりました。やっぱり欽ちゃんが言うと違いますよね。「おじいちゃん、おばあちゃん、1964年の写真をご提供ください」と呼び掛けてくれるだけで、年配の方々がきっと応援してくれると思うので。

_これからプロジェクトは、どんなスケジュールで進められていくのですか?

写真募集は随時、2020年までやろうかなと。将来的にはウェブだけではなく、リアルな場所があったほうがいいなと思っていて、どこか人通りの多い場所のワンコーナーをお借りして、古い写真を回収したり、「渋谷VR」が常設できるスポットを作りたい。僕が大事にしたいのは、古い写真と一緒に出てくるおじいさん、おばあちゃんの思い出なんです。僕らも古い写真の選定を行っていると、良くも悪くも止まらないんですよ。引っ越しのときに、古いアルバムを開いちゃった人みたいに(笑)。それがまた僕はいいと思っています。正直、最終的にはどんなものが出来るか分からないのですが、1964年の渋谷に行けるとなったら、結構夢のあることだと思う。「昔ここに行ったことがある」とか、「まだこれが走っている」とか、そういうふうに皆さんに喜んでもらえるコンテンツが出来たらいいですね。

1964年頃に撮影した空撮写真などから3Dモデリングしたイメージ。東急文化会館を中心とする当時の渋谷駅東口エリアの様子が3Dでよみがえる。

若者から大人まで、渋谷は多様なトライブが共存できる街へ 

_齋藤さんと渋谷との出合いはいつ頃ですか?

高校、大学生の頃です。僕は伊勢原出身ですが、小田急線で下北まで来て、井の頭線に乗り換えて渋谷へよく来てきました。ライブハウスは下北が多く、クラブは渋谷の方が断然多かったですね。僕らが学生時代の90年代はヒップホップが一番いい頃で、「ニュースクール(ヒップホップ第2世代)」と呼ばれる新世代のヒップホップアーティストを中心に聞いていました。それこそ、パートナーである真鍋もDJだったし、僕もちょっとやっていたので。そういう仲間が集まって遊びに行くのは、やっぱり渋谷が多かったです。

_学生時代と比べて、渋谷の街の印象は変わりましたか?

当時とはだいぶ街の様子が変わりました。特にそう感じたのは、2012年に渋谷ヒカリエが開業して、地下3階に新しい改札口が出来たとき。「渋谷が大人の街へ」みたいな話を聞いていましたが、僕は半信半疑で。「渋谷が大人の街になるわけねえだろ」と思っていたんですけど、2年前にオフィスを渋谷へ引っ越してきて、改めて見てみると「東側はすっかり大人の街になったな」という印象が強いです。

_「大人の街に変わった」とのことですが、若者が少なくなったということでしょうか。

今年4月にオープンした「渋谷キャスト」。シェアードオフィス「co−lab」やクリエイター向けの共同住宅「CIFT」が入居するなど、新しいコミュニティーが生まれる複合施設として注目されている。

いえ、それはあまり感じないですね。若い子たちはきっと「自分たちの街」だと思っているでしょうし、大人もそう思っていますよ。うちの親ぐらいの人たちだって、昔から「渋谷は俺の街」だと感じているでしょう。僕はよく部族(トライブ)と言うんですけど、渋谷は一個のトライブだけではなくて、全てのトライブが共存できる街になったのかなと感じています。渋谷は「ダイバーシティ」を標榜していますが、本当の意味で多様性がある街になったのでしょう。僕が知っている、かつての渋谷は良くも悪くも「自然発生的に文化が生まれる場所」だったと思う。でも、渋谷はもう次のフェーズに入っていて、新しいものが生まれるんじゃなくて、「新しいものをインキュベートしていく場所」になったのかなと感じています。例えば、渋谷キャストを見て下さい。あそこにはシェアードオフィス「co-lab」が入ったり、上層階にはクリエイターが共同生活する「レジデンス」が出来たりとか。求心力を持つ小さい拠点というか、巣がいっぱい出来たなという感じがして。みんなで集まってクラブ文化とか、音楽文化とか、ダンス文化を育もうという。ひと昔前はどこに行ったらいいのか分からないから、仲間がいる場所に会いに行くしかなかった。それこそ新宿の安田火災ビル(現・損保ジャパン本社ビル)の地下に行けば、ダンサーが集まっているみたいな。今の時代はSNSで全部シェアできちゃう時代。「自分はここにいるよ」と発信さえすれば、分散しがちなトライブを小さい束でまとめることが出来る。渋谷には、そんな小さな巣がたくさんある印象があります。

_創業10年を改めて振り返ってみて、どんなふうに感じていますか?

創業時は3人で、現在の社員数は40人ぐらい。テクノロジーで世の中を良くしていくとか、世界を幸せにしたいみたいな気持ちはありましたが、今のような規模や形になっているとは全く想像していなかったです。やっぱり10年後のことは、10年後にならないと分からないものですね。ただ、もう一度、この10年間をやりたいかと問われれば、もう二度とやりたくないなと(笑)。だから、何とかうまく乗り越えてやってきたのでしょう。

_一番変わったことは何ですか?

やっていることは、そんなに変わっていないと思います。唯一言えることは、デザイン部、アーキテクチャー部、リサーチ部という3つの顔を作ったことでしょうか。デザイン、アーキテクチャーは近いですが、リサーチはちょっと異質かもしれません。メディアアートなど、技術と表現の新しい可能性を探求する部門なのですが、彼らが発想する自由さは僕たちからすると、なかなか思いつかないことばっかりなので刺激が大きい。会社にとってはもちろん、社会にとっても影響が大きいと思っています。みんな一応、それぞれの帽子は被っているのだけど、別に分社化しているわけでもないので、僕みたいにデザインとアーキテクチャーの両方の帽子を被っている人もいます。はっきり棲み分けているわけでもなく、横断的に進めているところも多々ありますね。ただ、お客さん的には非常に分かりやすくなったみたいで、広告系の仕事、開発系の仕事、ブランディングとか商品開発系、それから最近では都市開発とか、まちづくり、地方創生などの仕事も増えています。

_仕事の領域がかなり多岐に渡っていますね。ライゾマティクスに「肩書き」をつけるとすれば、どんな言葉が相応しいと思いますか?

横文字で言うと「フルスタック」。でも、もっと分かりやすくいえば、「作りたがり屋の集団」ってところ(笑)。スタッフはみんな、大きなものから小さなものまで、何でも作りたいと思っている人たちばかり。もちろん仕事の発注は、デジタルや映像、照明の話が多いんですけど、端からアナログの会社だと思っている人や、都市開発のコンサル会社だと思っている人もいます。今はあまり僕らの仕事の分野を狭めず、僕たちが思い描くビジョンを形にするために必要な技術や、スタッフを集めて積極的に取り組んでいるところです。

渋谷東にあるオフィス内で撮影。もともと倉庫だった空間をリノベーションしたオフィスは、ガレージや工房のような雰囲気が漂い、イベントなどで使用するのであろう製作中の様々なモノであふれている。

東京には、ボブ・マーリーが必要だと思う。

_今後の齋藤さんが果たしたい夢や目標を教えてください。

とにかく「東京をいい街」にしたい。ただ、僕は神奈川県民なんですけど(笑)、マジで本心なんですよ。先ほど、僕らは「作りたがり屋の集団」と言いましたけど、知恵の輪が落ちていたら全部解きたくなるんです。渋谷駅地下空間の3D化でも、今まで誰も解けないと言われていたからこそ燃えてくるわけで。東京のまちづくりも同じ。東京全体の再開発を見て思うのは、三井、三菱、東急、住友、野村、森ビルなどの開発事業を担うディベロッパー各社が、もっと情報共有をすべきじゃないかと。例えば、アートはとりあえず森ビルに任せておこうとか。スモールビジネスから始める人たちは渋谷でいいとか…。営業の方々は必死で争奪戦やっていらっしゃいますけど、各社が持ち場をはっきりして、2番ライトとか、1番ショートとかを決めていくべきだと思う。現在、渋谷以外でも芝浦一丁目や羽田、虎ノ門、日本橋、新宿、池袋など、再開発を行っているところは東京中にあります。今後、大変な量の床(オフィスや商業施設の床面積)が一気に増えて、各社の取り合いが始まるのは目に見えていますから。

_確かに情報共有しないと不効率ですね。

それで「東京にはボブ・マーリーが必要だ」と思っているんです。昔、ボブ・マーリーがジンバブエで敵対するリーダー2人(マイケル・マンリーとエドワード・シアガ)をコンサートのステージに上げて握手させたように、各開発事業者が手を取り合って情報共有して振り分けしたほうが良いと思う。例えば、僕らが開発ディベロッパーを集めて、彼らにお互いに持っているカードをすべて出し合ってもらう。「僕らはあそこの製薬会社を狙っているので、あそこの社長からはちょっと手を引いてもらえますか」とか。逆に「うちは、こっちが取れそうなので。これをあげますよ」など、トレードしてみたり。現状そんなことは、絶対できません。秘密保持などもあるし、互いに手の内を見せ合わない。でも、それはすぐに出来ることだし、やったほうが誰も損しないと思うんです。じゃないと、東京はマッチポンプ式になってしまう。新築ビルが建てば新しいほうがいいから、みんなそっちに移動する。そうすると周辺の古い建物に空が出て売れなくなる、どうにもならないので開発ディベロッパーに売る、また開発第2弾が始まるという……。

_その問題をどうすれば解決できると思いますか?

マッチポンプ式の開発ではなくて、もっとヒューマンスケールなまちづくりを目指すべきだと思う。現場の人と話すと、皆さんそう言うんですけどね。とはいえ、行政が音頭を取って強制的に進めるのではなくて、ネットワークのプロトコルのような形でできないかと。要するにA社さんにもB社さんにも、耳打ちで教えてあげるというやり方なんですけど、その役割を僕らが担えると思っています。じゃないと、みんな同じぐらいの時期に、同じような機能を持つ建物をオープンしてしまう。秘密保持があるにしろ、僕らが一旦頭に入れて、「おたくは同じのを造らないほうがいいよ」って、教えてあげたほうがいいんじゃないかと。こんなことを言っていると、いつか干されるかもしれませんが(笑)。それが僕の当面の目標ですね。

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